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連載近田春夫の考えるヒット

近田 春夫
2017/11/08

思わず落涙寸前になった松山千春の“レゲエ”新曲――近田春夫の考えるヒット

初雪(松山千春)/ステップアップLOVE(DAOKO×岡村靖幸)

絵=安斎肇

『初雪』の検索をしてみたところ、音源がアップされていたので早速再生を試みると、まず耳に残ったのが、イントロのエレキベースの――ヘヴィなのにどこか軽やかな音色の故? いやいやフレーズのなせる技なのか――なんともいえぬ心地のよさだ。

 意外や意外! 松山千春の新曲はレゲエだったのである。

 イージーに、往年の“ニューミュージック”の平成版とでもいったものを想像していた俺には、このアプローチが大変に新鮮なものに思えた。

 楽器奏者たちがそれぞれのセンス/解釈で、それこそレゲエというアートフォームならではの“規律ある自由”を楽しむかのように繰り広げる、ゆったりとしていながら躍動感あるプレイの連続に、またボーカルが実によく呼応してくれている。心地よいのはベースだけではなかった。聴き進むうち、これは録音全体が素晴らしいグルーヴをたたえているのだと、俺はそのことに気づき始めたのだった。

初雪/松山千春(日本コロムビア)昨年デビュー40周年を迎えた松山千春の78枚目シングル。アルバム『愛が全て』と同時発売。

 よくjpopの楽曲にみられるような、歌と伴奏という主従の関係のなかでは決して表しえないものがここにはある。音楽としての一体感、音そのもの同士間の平等性である。新譜からそうした印象を受けるといった経験は、この頁を担当するようになって以来、本当に稀なことといっていい。

 それにしてもあらためて感服させられてしまったのが、松山千春の歌いっぷりだ。おそらく本質はなにも変わりはしないのだろう。20代にすでにひとつの境地を得ていたとも思える、まさしくあの声、あの歌唱なのであるが、遂には“名人芸の域”に達したといってよいのかもしれぬ。たとえばお馴染みの、鼻にかかって伸びやかな高音部分のビブラートひとつとってみても、かつてと比べ、艶といい力強さといい、いちいちその魅力の発揮の仕方には――聴いていただければ納得の筈――大層な拍車がかかっていて、誤解を恐れずにいえば、もはや別モノなのである。こいつはホント、マジたまらないっす!

 楽曲に目を転じれば、光るのはやはり作詞だろう。いってみればこれは松山千春による「初雪論」である。すなわち、その故郷である北の大地に暮らすものにとって、初雪にはそれなりの、ある種“官能的な喜び”もあるに違いないにせよ半面、見上げた灰色の空が、来たる重苦しい厳しい季節の始まりを暗示しているのも事実。手放しに安易にロマンチックだとかはいえぬのが北国の初雪であるということが、別に具体的にそういった何かがコトバで示されている訳でもないのに、この歌を聴いていると、イメージとして、見事いつのまにかアタマのなかに広がってくる。

 更にまた、メロディーがそうした情景に一層の哀愁を添えて、リスナーの心を熱くさせるのか。図らずも聴いているうち俺は思わずもう少しで落涙するところなのであった。

ステップアップLOVE/DAOKO×岡村靖幸(トイズファクトリー)売り出し中の20歳ラッパーDAOKOと、50代の岡村のコラボ曲。

 DAOKO×岡村靖幸。

 なにがこのコラボ作品の核となるのか。そこがちょっと見えづらかったかなぁ?

今週のカーセンサー「オレの家の近所はカラスが多くてさ。自己流のカラス語で“ここで糞するな!”とかカラスに言ってきたけど、こないだテレビで、カラス語の研究者のことが紹介されていたんだよ。“敵だ”とか“食べ物だ”とかいま40語ぐらい判明しているんだって」と近田春夫氏。「これを習得できれば、ドリトル先生になるオレの夢も叶いそうだね」