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テレビっ子新王座 棋士・中村太地インタビュー#2 “ドラマの手つき”と“ひふみん”のこと

『古畑任三郎』棋士が犯人の回、見ました

―― 師匠と弟子の関係ってどういうものなんですか? 

中村 これはほんと門下によって全然違うんですけど、うちはわりと放任主義でした。師匠は年齢も結構上でしたし、門下入りした時から棋界の運営に結構かかわっていて、将棋連盟の会長もやってましたので、かなり遠い存在でした。たまに会うと、「元気にやってるのか?」とか声かけていただきましたけど、目を見て話せるような感じではなかったですね。怖いというか、威厳がありすぎて。

―― 兄弟子とかとの上下関係みたいなものってあるんですか? 

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中村 はい、それは普通にあります。体育会系なノリというわけではないですが。将棋を教えてもらったりとか、ご飯に連れて行ってもらったりしました。

―― 勉強会みたいなのってあるんですか?

中村 そうですね。月に1回師匠宅で勉強会が開かれていて、兄弟子たちと将棋を指したり、自分が奨励会で指した手を師匠に講評していただくとか。

 

―― 奨励会に入ってからも、テレビとの縁は変わらずでしたか? 

中村 見てましたよ。あの頃はドラマをよく見てたかな。ちょっと大人の恋愛ドラマっていうんですか、そういうのを見てもストーリーを追えるようになってましたから。あとは『古畑任三郎』シリーズとか。

―― 棋士の回(第1シリーズ 第5話)がありましたよね。坂東八十助(当時)が演じた回。

中村 ありましたね。見ました。

―― 封じ手がトリックに関係している。

中村 将棋のサスペンスの場合、大体そこがトリックになりますよね(笑)。

ドラマを観ていて、どうしても気になるのは「手つき」

―― 将棋のドラマでいうと、『ハチワンダイバー』とかもありましたね。

中村 そうですね。あと、結構前だと、森田剛さんが主演で『月下の棋士』もやっていました。藤原竜也さんの『聖の青春』とか。松山ケンイチさんで映画化される前にドラマでやったんですよね。あれも見てました。

―― ああいうのを見ていると、現実とは違うな、って思うところとかってあるんですか? 

中村 まあ、多少はありますけど、そこは目をつぶって(笑)。

―― 楽しめるほうですか? 

中村 そうですね。将棋を扱ってくれるだけでうれしいので。でも、どうしても気になるのは手つきです。この駒を指す手つきが、俳優さんでもなかなかうまくできなくて。相当練習しないと駒がパチンって鳴らないんですよ。鳴らさないと将棋をやってる人から見るとちょっと違和感があるんですよね。

―― あれは弾みをつけて、テコみたいにパチンとやっているわけではないんですか? 

中村 置くだけでパチンって鳴るんです。人差し指と中指で挟んで置くと自然とパチンと音が出るんですけど、そこの加減というか、具合が結構難しくて。僕も、「これは最善の一手だ!」って思った時は駒音高くなるように、意識的に置きます。気持ちいいんですよ(笑)。最近の映画だと、『聖の青春』とか『3月のライオン』の方たちは何カ月も練習してくださったそうで、うまく駒音を出されてました。

 

―― 駒音には棋士の美意識が出るものなんですか?

中村 中には音をなるべく鳴らさないようにする人もいるんですよ。丸山忠久九段は、そっと静かに、きちっと、鳴らさないように指す。「音無し流」とまで呼ばれています。その逆に、気合のみなぎった駒の置き方をされる方もいます。

―― 加藤一二三さんは?

中村 「バチーンッ!」ですね(笑)。それで加藤先生の駒が割れたっていう伝説もあります。