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連載高野秀行のヘンな食べもの

高野 秀行
2017/11/14

コカの葉売り場

 コカの主要な薬用成分はコカイン。コカの葉からコカインだけを抽出・精製したのが同名の麻薬である。(ちなみにコカ・コーラの「コカ」はこのコカのことで、発売当時は本当にコカイン成分が含まれていたという。今はもちろん含まれていない)

 そのせいでコカの葉もコカ茶も日本では違法とされているが、葉にはそれほど強い作用も依存性もないため、ペルーやボリビアではコカを嗜む人の姿が風景の一つに見えるほど一般的だ。

 クスコの空港の到着ロビーには、皿の上にウェルカム・ドリンクならぬ“ウェルカム・コカ”(コカの乾燥茶葉)が置かれ、旅行者が自由にとれるようになっていた。この食堂でもコカの葉が食卓に当たり前のように用意されていた。

お茶用コカの葉

 葉っぱは長さ五センチほど、料理で使うローリエそっくりの形と質感だ。女の子の指示にしたがって茶を入れる。葉をひとつまみ紅茶のカップに入れ、湯を注ぎ、蓋をして三分という、カップ麺のような手順でコカ茶の出来上がり。

 薄い黄色の茶を含むと、味はマイルドで、緑茶それも日本茶に似ていると思うのは、どちらも茶葉を発酵させていないので、若干青臭さが残っているせいだろう。

 茶を飲みながら、若干食欲があったので、パンやチーズを食べているうちに、自分がふつうに体を起こしていられることに気づいた。息苦しさが明らかに軽減している。なんという即効性。

 ビバ、コカ茶!

コカ茶を飲む筆者

 食後、食卓のコカの葉をまた、ひとつまみ、口の中に放り込んで、外に出た。自分用のコカの葉を買うためだ。二十五年前はコカの葉を噛みながら、四五〇〇メートルくらいの山に登ったのだった。郷に入れば郷に従え。今回もコカにすがってこの苦境を脱出したい。(以下、次号)