翌日は月の時間に合わせるのはやめて、通常の太陽時刻にもどすことにした。月はまだ一応出ていたが、その光はもう無きも同然であり、それなら太陽の正中時刻に歩いたほうが、もしかしたら空がうっすら明るくなるかもしれないので、そっちを期待したほうが賢明に思われたからだ。そして前日までと同じようにひたすら星を見ながら歩いた。残念ながら太陽の正中時刻になっても、空には期待したような薄明りは広がらず、ほぼ真っ暗だった。世界は完全に一日中極夜の闇に閉ざされ、ただ星だけが瞬いていた。

 歩けど歩けど、結局この日も氷床行進に終わりが見られる気配はなかった。いい加減、今日は終わるだろうと思っていたのに終わらなかった。そしてその翌日も、さすがに今日こそは終わるだろうと思って出発したが、やはり氷床は終日真っ平らな状態がつづき、終わるどころか終わる兆候さえ見られなかった。

氷床にたどりついた頃は、月明かりで周囲を十分に見渡せたが…… ©角幡唯介

歩けども歩けども終わらない氷床

 これはどう考えてもおかしなことだった。もう12月23日だった。過去に私は氷床の同じルートを都合3回歩いていたが、いずれも3、4日で通過していた。たしかにそれは明るい時期の話で橇の荷物も軽かったので、今回はもう少し時間がかかると想像はしていたが、そうはいっても距離は50キロほどしかないので最悪5日歩けば十分に越えられる。それがまるまる6日間歩いても下る兆しさえないのだ。

 翌日も歩き続けた。歩きながら私は何度も背後を振りかえった。背後の雪面は若干下っているように見えるが、もしかしたら下っていないかもしれなかった。というより、ひょっとしたらまだ登りなのかもしれない。月も消えたし、暗くて氷床の傾斜は視覚ではよくわからなかった。ただ肉体的な感覚としてはそれほど橇を重たく感じないので、やはり若干の下り斜面だと思うのだが、しかし、それが正しければ、この感覚は12月20日からつづいていたので、少なくとも4日ほど下っていることになる。だが、そんなわけはなかった。4日も下ればさすがにもう氷床は終わっているはずである。