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今野晴貴×石田衣良「ブラックバイト」を許すな!

『西一番街ブラックバイト』 (石田衣良 著)/『ブラックバイト』 (今野晴貴 著)

note

石田 求人票詐欺のあとに、契約の強制がセットになってるんだ。

今野 はい。これまでは非正規社員になったら大変だと言われてましたけど、今では正社員として入社してもブラック企業が存在する。その次は学生のアルバイトという風に、労働環境の悪化がどんどん外側に広がってるんですね。

石田 不景気が続くと、人間が安くなるんです。人間よりも金、利益のほうが価値があると考えるようになるので、どんどん人が使い潰されちゃうんですよね。しかも若者ほど、それを当たり前のこととして受け入れてしまう。しかし、なんでこんなに日本人って働いちゃうのかな。終身雇用もなければ年功序列の賃金だって崩壊しているのに。

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今野 働き方の輪郭がないんですよね。どこまで何をやるのが自分の仕事なのかという境界がはっきりしていないんです。

石田 日本人って働くことがイコール人生の目的みたいに、あまりにビッチリ一致しているのがよくないと思うんです。今回の小説にも書きましたし、今野さんの本にも出てきますが、経営者側が安っぽいポエムのような言葉で“仕事を通じての自己実現”を若者に強いて使い潰す構図が、見ていてとても気持ち悪い。

今野 ブラック企業は、若い人を死ぬほど働かせて追い詰めるという技術だけはあるので。むしろ、それがコアコンピタンス(企業の中核となる強み)なんじゃないかと思うくらい(笑)。

石田 某居酒屋チェーンでも、経営者を崇拝させるような企業風土があると聞きますけど、今野さんの話を伺うと、滅私奉公と個人崇拝という東アジア的な文化が関係している気がする。

今野 たしかに海外の労組の人と話していても、不払いだけは理解してもらえないんですよ。「えっ、不払いでしょ。普通請求するでしょ?」って。でも日本では請求せず諦めてしまっている人がすごく多いわけで。

石田 今の日本の問題点の多くって、儒教が絡んでるんですよね。財政が悪いのに年金を削らないのは、年寄りを慮(おもんぱか)っているわけでしょ。同じように、バイトにしろ会社にしろ目上の人間、上司にはいっさい逆らわないのが道徳的という風になる。個々の人間がもっと自分勝手にならないとこの状況は改善されないかな。

今野 そうですね。日本人の場合、個人としては控えめなのに、企業とか市場を通すと、自分勝手になれる。無理な営業とか、ビジネスパーソンとして会社を通してしまうと社会に対して何でもやれるといいますか。

石田 会社に対しては全面的に服従するのにね。

今野 ええ。ですから、原始的な手法ですけど、若い人は特に利害対立ということをもっと意識したほうがいいと思います。自分はこれだけやったんだから、この分は貰うんだという感覚ですね。「ウィン・ウィン」って言葉がありますけど、僕すごく嫌いなんですよ。

石田 どうして?

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