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「彼は取り憑かれたように黒澤明の話を…」リドリー・スコット監督が“3つの視点”で描く「最後の決闘裁判」

リドリー・スコット(映画監督)――クローズアップ

2021/10/15
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 SF映画の金字塔『ブレードランナー』やアカデミー賞受賞作『グラディエーター』で知られる英国の巨匠リドリー・スコット。10月15日公開の最新作『最後の決闘裁判』は、14世紀のフランスで起こった事件を元にした歴史ミステリーである。夫の旧友から強姦されたと訴える騎士の妻マルグリット、名誉のために決闘も辞さない彼女の夫カルージュ、無実を主張するル・グリ。果たして真実は何か。フランスで法的に認められた最後の決闘裁判の様子を三者三様の視点から描く。

リドリー・スコット監督

「この企画はマット・デイモンから持ちかけられた。“あなたは決闘についての映画をいくつか撮っているけれど、もう1本やらないか”ってね。彼は取り憑かれたように黒澤明監督の『羅生門』の話をしていたよ。3つの異なる視点から事件を語るという素晴らしいアイデアに惹かれたんだ」

 スコット監督の『オデッセイ』(2015年)でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされたデイモンは、米国の作家エリック・ジェイガーによるノンフィクションに興味を抱き、プロデューサーとして参加。カルージュ役として出演するだけでなく、アカデミー賞脚本賞を受賞した『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(1997年)以来24年ぶりにベン・アフレックとタッグを組み脚本を執筆している。脚本チームには、被害者である妻のパートの執筆のために、アカデミー賞脚色賞にノミネート歴のある女性脚本家ニコール・ホロフセナーが迎えられた。たった6週間で書いたという脚本にスコットは唸らされたという。

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「彼らの脚本はとても明確で素晴らしかった。3章から成り立っていて、妻が乱暴されたと単純に思い込んでいる夫の視点、実際に行為は認めるものの悪いこととは思っていない男の視点、そしてもちろん最も重要なのはマルグリットの視点であり、彼女が置かれていた状況や背景も描くことだった」

 中世が舞台であるが、地位や権力、プライドが価値基準となっている男社会で、傷つきながらも真実のために声を上げるマルグリットは本作の真の主人公だ。

 一方で、本作では、元祖ビジュアリストといわれたスコットならではの迫力あるアクションシーンも見どころだが、複数のカメラを同時に回し、短時間で撮影を終える流儀は俳優陣からも評判がいい。

「この仕事を始めて10年くらいで気づいたのはどの俳優も38回ものテイクは望んでないということだ。彼らは演技のプロなんだから、2回か3回のテイクで十分だ。特にこの作品のように重い題材や繊細な感情を描く場合には、俳優も集中力が必要だからね」

 83歳の今もひっぱりだこで、常に複数のプロジェクトを抱えている。年明けには有名ブランド創業一族のスキャンダルを描いた『ハウス・オブ・グッチ』が日本公開され、『グラディエーター』の続編も準備中だ。

「私にとって映画は仕事ではなく情熱なんだ。だから私にはホリデーは必要ないよ」

Ridley Scott/1937年イギリス生まれ。デビュー作『デュエリスト/決闘者』(77年)でカンヌ国際映画祭新人監督賞を受賞。大ヒット作『エイリアン』(79年)などで知られる。『グラディエーター』(2000年)でアカデミー賞の作品賞を含む5部門受賞。

INFORMATION

映画『最後の決闘裁判』
10月15日公開
https://www.20thcenturystudios.jp/movies/kettosaiban

「彼は取り憑かれたように黒澤明の話を…」リドリー・スコット監督が“3つの視点”で描く「最後の決闘裁判」

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