文春オンライン

家族や近しい人の看病や介護の合間にお薦めの3冊

2017/12/11

 私の場合、母の看病の時は、家族はめいめい夢中になれる本を読んでいた。たしか、父は司馬遼太郎の『竜馬がゆく』を読んでいたし、私は沼田まほかるがブームで、『猫鳴り』や、『彼女がその名を知らない鳥たち』などを片端から読んでいた記憶がある。看病の時には、あまり難解な本は受けつけない。暗すぎるのも、明るすぎるのも、説教くさいのもダメだ。だから、みなさんに共通のおすすめ本を見つけるのは、私にはとても難しいと思っていた。

インプットよりもアウトプット

 しかし母が病気になったころを振り返っているうちに、大事なことを思い出した。母の病気をきっかけにして書き始めた原稿『エンジェルフライト』が開高健ノンフィクション賞を受賞したのだ。それは母の病気とは直接関係のない題材だが、当時、私はインプットよりもアウトプットを求めていた。胸のつかえを吐き出す場所を欲していたのだ。あの頃、背中を押してくれた本がある。ナタリー・ゴールドバーグ『魂の文章術』(春秋社)だ。もし頭の中で思考が渦巻いていて、誰にも吐き出せないことがあるなら、一読をお薦めしたい。

©iStock.com

ADVERTISEMENT

 文章術、などと聞くとプロを目指す人の文章指南のようだが、少し趣が違う。どちらかというと、筆の赴くままに任せて、どんな感情であれ、自分を信じて、ただノートに書きつけていきましょうという、いわば「書く瞑想」についてのガイドブックである(実際に著者は禅の修行をしている)。これは家族だけでなく本人にもぜひおすすめしたい。文章のうまい下手は関係ない。彼女のガイドに導かれて書いていくと、最初は激しい感情が現れてくるかもしれないが、最後には静謐で穏やかな、自分の中からわきだす美しい真実にたどりつく。これは、他人からの共感を得るためのものではない。環境の激変で見失ってしまった自分の軸に戻るための処方箋である。