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連載高野秀行のヘンな食べもの

高野 秀行
2017/11/28

アンデス“巨大食用ネズミコンテスト”の意外な採点項目――高野秀行のヘンな食べもの

イラスト 小幡彩貴

 先日、ペルー・アンデスの中心地であるクスコの中央市場へ行ったら、毛がむしられて裸状態の巨大ネズミの死体がバケツや洗面器に山積みにされているのを見て、一瞬ゲッと思った。

 ――これがクイか……。

 ネズミを食べる地域は世界でもそこかしこにあるが、「家畜」として飼っているのはペルーからボリビアにかけてのアンデス山脈だけだろう。

 ネズミと言っても普通の家ネズミではなくテンジクネズミ。日本ではかつてよく実験に使われ、今ではもっぱら愛玩用として飼われているモルモットだ。ペルーでは「クイ」と呼ばれる。

 アンデスでは決してゲテモノではない。それどころか、この世界最小の家畜があまりにポピュラーなことに驚かされる。

 クスコ市内でタクシーの運転手にクイについて訊いたら、「ああ、うちでも十匹くらい飼ってるよ。母の日とか親戚が集まったときとかに潰して食べるんだ」と事もなげに答えた。町の人間でもベランダ園芸並みの気楽さで食用ネズミを飼育しているのだ。

 クイ飼育の上級者になると、今度は「コンテスト」に熱を入れる人が出てくる。

 アンデス各地で開かれる農産物の見本市などで、クイ農家が自慢のクイを持ち寄り、優劣を競うという。私はそういうクイ農家(旅行者用のバンガローも経営している)を紹介してもらい、一泊しながらクイの飼育から屠畜、料理まで取材させてもらうことにした。クスコから車でざっと一時間ほどの農村だ。

道端で串焼きを宣伝する女性

 途中、ピサックという集落を通りかかると、数人の女性が道の両脇から現れて、両手で旗のようなものをぶんぶん振っている。よく見れば、木の棒に刺さり、こんがり焼けたクイ。この集落はクイ・アル・パロ(クイの串焼き)で有名だという。つまり名物料理をそのまま振り回して客引きをしていたのだ。その素朴さというか、単刀直入さに笑ってしまった。

 クイは体長五十センチほど、意外にでかい。私が子どもの頃に飼っていたものよりずっと大きい気がする。二、三人分になるのではないか。野菜の付け合わせを含めて一匹三十五ソル(約千百五十五円)とのこと。

 だが、私はもっと美味いクイを食べるため、そこは素通り。目的のクイ・ファームに到着した。