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『逃げ恥』だけじゃない…乃木坂46の躍進の影にあった「逃げたい」「傷つきたくない」という“需要”

『女の子の謎を解く』#2

2021/12/16

 先日「紅白歌合戦」2年連続落選が報じられたAKB48。一方で、AKB48と入れ替わるように躍進した乃木坂46は、7年連続7回目の出場が決まった。2つのグループの違いは何か。

 小説や漫画、ドラマ、映画、アイドルに描かれる「ヒロイン」を読み解き、今の世の中を考察する『女の子の謎を解く』(笠間書院)の一部を編集・抜粋し、紹介する。(全2回の2回目/前編から読む)

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乃木坂46が打ち出した「逃げる」ということ

 2011年に結成された乃木坂46が、はじめて『サヨナラの意味』でミリオンセラーを生み出したのは2016年のことだった。

 前年の2015年に『君の名は希望』で紅白初出場。2017年に『インフルエンサー』でレコード大賞。つまり乃木坂46の躍進と流行は、2010年代中盤の出来事だった。

 乃木坂46のメンバーを追いかけたドキュメンタリー映画『悲しみの忘れ方Documentary of 乃木坂46』を観ると、画面に映る美少女たちには一貫した物語があることに気づく。それは「乃木坂に入る前は、居場所を見つけられなくて孤独だったけど、乃木坂に入ることで居場所を見つけられました」という物語だ。

©文藝春秋

 彼女たちの物語は常に「乃木坂46が、外界では見つけられなかった私の居場所だ」という言葉に支えられる。AKB48グループがむしろ外界から隔離された競争の場だったのとは正反対だ。

 つまりAKB48グループはそのフォーマットそのものが「争うべき市場」だったのに対して、乃木坂46のメンバーは、どこか乃木坂という場を「争って傷つかなければいけない市場からの逃げ場」として見ている。

©文藝春秋

 秋元康が作成する歌詞もまた様相が異なる。AKB48グループの曲が『Beginner』や『RIVER』のような戦う少女たちの歌詞だったのに対して、乃木坂46には『君の名は希望』『シンクロニシティ』のような、誰かに寄り添う主人公を描いた歌詞を提供することが多い。おそらく彼女たちの発言やグループとしての特徴を捉えてのことだろう。

 外の世界では孤独を感じていた美少女たちが、はじめて見つけた居場所。それが乃木坂46という物語だった。このグループが2010年代の中盤で流行したのは、これが時代に合った物語だったからだと考えられる。

 TBSドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』が爆発的に人気になったのは、乃木坂46がミリオンセラーを出した2016年のことだった。また同じく2016年、『コンビニ人間』が芥川賞を受賞し、ベストセラーとなる。2016年に流行したこの二つの作品に共通したテーマは、まさしく「市場からの逃走」だ。

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