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がん治療中のQOL向上のために、心のケアを担う「精神腫瘍科」とは?

国立がん研究センター東病院 小川朝生医師インタビュー#1

2017/12/04

子どもへの告知は「小学校高学年以上であれば理解できる」

──子どもへの告知に悩むがん患者やそのご家族の悩みもよく聞きます。

小川 お子さんへの告知は、家族間でも話し合いが難しいため、まして子供にどのように伝えるかの話に及んでいないことが多いです。「受験生だから余計な心配をかけたくない」「まだ小さいからショックを与えたくない」など思いはそれぞれですが、一般的に小学校高学年以上であれば理解できる年齢です。

 親に本当のことを打ち明けてもらえないことで罪悪感を抱くケースもありますので、お子さんの理解度を見ながら、正直に話してあげた方がいい場合もあります。そういった相談にも私たちは喜んで乗らせていただきますので、「こんなこと話していいのかな」などと遠慮なさらず、どんなことでもお気軽に相談に来ていただきたいですね。

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──具体的にどのような相談をしたらいいか分からないけれども、話を聞いてほしいときはどうしたらいいんでしょうか?

小川 「何を質問していいかわからない」という患者さんのために、「重要な面談にのぞまれる患者さんとご家族へ」というパンフレットをご用意していますので、ダウンロードして使っていただければと思います。資料もたくさん作っているんですけど、なかなか見てもらえないので、宣伝させてください(笑)。

仕事・ご近所付き合い・趣味は「待って待って! やめないで!」

──小川先生が診療で大切にされていることを教えてください。

小川 患者さんの価値観を意識して聞き出すよう心がけていることでしょうか。価値観というのは、患者さんが何を一番大事にしているか、そして何をやりたいと思っているのか、ということです。

 私が診てきた患者さんの多くは、限られた余命の中で何か特別なことをするよりも、今日と同じ当たり前の日常を明日も送りたいと望まれる場合がほとんどでした。在宅治療がいいとか、先進治療を受けたいというような希望以前に、「誰といたいか」「どう過ごしたいか」など、普通の暮らしが普通に送れるようサポートするのが、精神腫瘍科の役割だと考えています。

──がん治療のめざす先が「普通の生活の維持」ということでしょうか。

小川 がんの治療は、陸上にたとえるなら、短距離走ではなくマラソンです。本人のやりたいことを、今の生活と同じペースで続けて行くことを目指して治療を行います。患者さんの中には、仕事も近所付き合いも趣味もすべてやめて、「治療に専念します」と言って病院に来られる方もいらっしゃるんですけど、「待って待って! やめないで!」と言っています。

 

──マラソンを走りきるには、自分の過ごしやすい環境とペースを整えないといけませんよね。

小川 だって「全部辞めて治療だけに専念」なんて、「普通の生活」と一番遠い暮らしじゃないですか。仕事もそうですが、ご近所付き合いや趣味って、生活の「彩り」なんですよ。治療も2~3か月経てば、概ねどのような方針で行っていくのかが見え、その後の生活や仕事の見通しが立てられるようになります。「それまでやめるのではなく休んだらどうですか」と、患者さんにはいつもお話ししています。

写真=山元茂樹/文藝春秋
(#2に続きます)

おがわ・あさお/ 1973年生まれ。医学博士・精神腫瘍医。大阪大学大学院医学系研究科修了。現在、国立がん研究センターの東病院精神腫瘍科長と先端医療開発センター精神腫瘍学開発分野長を務める。国立病院機構大阪医療センター神経科時代、精神科医として緩和ケアチームに携わった経験を持つ。著書に『新版 がん緩和ケアガイドブック』(共著)、『あなたの患者さん,認知症かもしれません』など。

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