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就労世代のがんサバイバーへ 「仕事のペースを取り戻すために、少なくとも半年から1年はかかるものです」

国立がん研究センター東病院 小川朝生医師インタビュー#2

2017/12/11

職場復帰で悩みを抱えることが多いのは「40代~50代の女性」

──どういう世代の方が、そういった「つまずき」で悩んでしまうんでしょうか。働き盛りの男性サラリーマンとか?

小川 実は、40代~50代の女性の方が多いんです。真面目な性格の方は、「これまで普通にできていたことができなくなっている」と強いショックを覚えます。皆さん、復帰したらすぐにフルで働こうとして、とても焦ってしまうんですよね。

──「復帰はできたけれど……」という状況を生み出しているのは、がん患者に対する「心の支援」が足りないことが原因の一つだと。

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小川 日本の場合、情報提供は優れているのに、メンタルサポートが追いついていないということが問題なのだと思います。海外では通常、がん患者への情報提供はメンタルサポートとセットで行われますから。

 たとえば職場復帰に向けた社労士との面談では、職場復帰する際の事務的な手続きや休暇、助成金、勤務体制などについてのノウハウは教えてもらえても、ストレスへの対応や、同じ課題に直面した時に乗り越えられる情緒的、あるいは心理的サポートなどは含まれていません。そういう部分が抜けているのだと強く感じています。

 

──なるほど。ほかにも小川先生が「足りない」と感じるのは、どういう事柄でしょう。

小川 ピアサポートやピアカウンセリング(同じ症状や悩みを持つ人によるサポートやカウンセリング)も、日本は弱いですね。厚生労働省が所轄する「がん対策推進総合研究推進事業(がん政策研究推進事業)」では、ピアサポートの研修プログラムや教科書なども用意されていますが、教科書だけあってもねえ(苦笑)。いま、求められているのは地域で実際に取り組みを行うための「支援」なんです。それを国の仕事とするのか、地方(県)の仕事とするのか。復職に向けて課題を提示し、サバイバー同士が話し合える場が各地にないと、提供できる「支援」として形になりにくい。もっと現実的で具体的なアクションが必要です。

「がん」に特化するとなると、日本の医療体制では厳しい

──地方にはがん患者のメンタルサポートを専門にする科が設置されていない病院もありますね。

小川 地方はもっと深刻です。本来は日本各地の拠点病院に精神腫瘍科があるのが望ましいのですが、「がん」に特化するとなると、日本の医療体制では厳しいと思います。

──人材不足ですか。それとも教育不足ですか。

小川 そのどちらもでしょうね。精神腫瘍科が広まらない理由の一つには、需要に対し医療従事者が不足していることがあげられます。心の健康に対する支援は、がん患者さんに限らず、認知症や自殺、薬物依存対策などさまざまなケースがあります。都道府県の拠点病院までは何とか普及できても、その先の地域拠点病院となると、メンタルヘルスに関わる人材が不足しているために、がんだけに特化できないというのが課題です。