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病院の外でがん患者と医師が対話する「がん哲学外来」とは?

順天堂大学医学部病理・腫瘍学教授 樋野興夫医師インタビュー#1

2017/12/04
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 病院の外で、医師と患者が対話を行う「がん哲学外来」。医師による予約制の個人面談の場には、がん患者や家族が足を運びます。張り詰めた顔で「がん哲学外来」の場を訪れる人が大半ですが、帰り際には少しほっとした表情や笑顔を見せる人が少なくないのだそうです。

 この「がん哲学外来」をはじめたのは、順天堂大学医学部病理・腫瘍学教授で一般社団法人がん哲学外来理事長の樋野興夫医師。がん患者と向き合う「対話」とはどんなものなのか、お話を伺いました(全3回の1回目。#2、#3に続きます)。

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「がん哲学外来」とは?

――「がん哲学外来」とは、どのようなものですか。

樋野 「がん哲学外来」は、外来といっても、病院の専門外来ではないんですよ。私が行っている個人面談で、時間は一回30分~1時間ほど。費用は無料です。

樋野興夫医師

――病院の診察券が必要ですか。

樋野 いやいや、治療ではないから診察券は必要ないよ。

――カウンセリングとも違うのでしょうか。

樋野 カウンセリングは治療なので、患者さんからの聞き取りが重要になるんです。「がん哲学外来」というのは、医師が患者さんやご家族の悩みを聞き、同じ目線に立って“対話”をする場なんです。医師というのは、私ね(笑)。

――でも、一対一で白衣の先生を前にすると、緊張してしまいそうですが。

樋野 大丈夫、大丈夫。その日は、白衣ではなくスーツだからね(笑)。私も饒舌なほうではないし、脈絡のない話になっても構いません。会場も病院ではなく、駅から近い公共の場を利用しているから、堅苦しさもなければ、消毒のニオイもないよ。お茶を飲みながら、その方のペースでお話ししてもらっています。

黙ってその人の沈黙に寄り添うことも、対話なんです 

――なぜ対話が良いのでしょうか。

樋野 人は「傾聴」だけでは心が休まらない。「対話」によって慰められるんです。会話は言葉だけど、対話というのは、心と心だからね。だから、黙ってその方の沈黙に寄り添うことも、対話なんですよ。

――沈黙も対話、ですか。

樋野 そう。普段、病院で医師から必要な情報提供を受けて、話を聞いてもらうのも大事なことですが、それだけでは満たされない部分がある。がんの患者さんというのは、治療だけでなく、心の安定を求めているんです。一方で、日々治療に当たる医師たちは、気持ちがあっても忙しすぎて、患者さん一人一人に十分な診療の時間を取れないからね。そこをすくい取ろうと立ち上げたのが「がん哲学外来」なんです。