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【大腸がん編】8大がん第一線の専門医が語る「予防」と「治療」の完全マニュアル

 ここ数年で急増しているのが大腸がんだ。これまでは罹患数で部位別の3位だったが、2017年の予測は約14万9500人で、2015年の予測で肺がんと胃がんを抜いて初めて1位に急上昇となった。死亡数は約5万3000人で、こちらも2位まで上昇している。

「大腸がんは遺伝子異常がいくつか積み重なって発症しますので、長生きするほど発症しやすくなります。つまり日本の高齢化が進んだために、お年寄りの大腸がんが増えているのです」

 こう語るのは、大腸癌研究会前会長の杉原健一光仁会第一病院院長だ。

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「発症の仕組みは2通りあります。まず良性のポリープができて少しずつ大きくなり、一部ががん化して全体を占めていく。もうひとつはポリープを経ないで直接がんができるタイプ。どちらも遺伝子異常の蓄積によって起こり、比率は6対4で前者がやや多い」

 加齢以外の原因も、少しずつ解明されている。

「赤肉(牛・豚)や加工肉(ベーコン・ハム・ソーセージ)も大腸癌の原因になるのではないかと言われています。肉を食べると肝臓から胆汁酸という消化液が出て、それが腸に入ると腸内細菌で二次胆汁酸に変わります。この二次胆汁酸に発がん性があります。一方で穀類や豆類などの食物繊維を多く摂ると、繊維のなかに発がん性の物質も含めたいろんなものを取り込んで便の量が増えますから、がんになりにくい。逆を言えば食物繊維が減ると、がんができやすくなります。ただし、どの程度食べればいいのか悪いのかという基準は、まだはっきりしたことがわかっていません」

©iStock.com

 遺伝のリスクも気になるところだ。

「大腸がんになりやすい“家系”はあります。遺伝子異常の蓄積がすでにどれだけあるかという元々の体質に加え、家族だと食生活などの環境が似てきます。血縁関係に大腸がんの方がいればリスクは2~3倍。そういう方は30代のうちに1度は精密検査の大腸内視鏡検査を受けてください」

 一般に大腸がんは「症状が出にくい」と言われるが、実際はどうなのか。

「早期だと症状はありません。ステージⅡ以上に進行すると、肛門に近い直腸がんなら便の表面に血が付く。奥のほうのがんだと便のなかに血が混じります。また、がんが大きくなると腸が狭くなり、便秘か下痢の症状が表れます。それまで快便だった方が、急に便秘か下痢になるようなら気をつけたほうがいいでしょう」

 これらは直腸やS状結腸にできるがんの症状だが、もっと奥まった体の右側にできるがんは、さらに症状が出にくい。

「右側のがんで出血していても、完全に便と混じりますので、見た目での判断はできません。見えない出血が続くため貧血になって発見されるケースやお腹の右側を触って『なにか固いものがあるな』としこりでわかることもあります」

 便の血を調べるには通常のがん検診で行われる「便潜血検査」が簡易なうえに有効である。そこで陽性と出れば、腸内にカメラを直接入れて観察する「大腸内視鏡検査」が勧められる。

「40歳以上の方は便潜血検査を毎年受けましょう。大腸がんの進行は決して早いものではありませんが、検査の見逃し率が14~15%はどうしても出てしまいます。陰性でも安心しないで、毎年受け続けることが大切です。

 陽性なら必ず大腸内視鏡検査を受けてください。陽性と出ても精密検査を受ける方は65%しかいませんが、そこから100人のうち1人か2人は実際にがんが見つかります。良性のポリープが見つかった方は、翌年もまた内視鏡検査を受けてください。何も見つからないかポリープを取り終えた方なら内視鏡検査は3~5年受けなくても問題ありません」

 大腸がんは早く見つけて治療さえすれば、比較的治りやすいがんだ。

「粘膜のなかにとどまっている早期がんなら内視鏡による治療で、粘膜下層より深くもぐり込んでいるがんであれば手術となります。内視鏡治療で終わるのは全体の3%前後で、メインになるのはやはり手術での治療。5年生存率は粘膜内のステージ0なら97~98%、Ⅰ期で95%以上、Ⅱ期は90%前後、Ⅲ期でも8割は治ります。Ⅳ期だと肝臓や肺に転移しますので、15~16%まで一気に下がります。手術できなければ抗がん剤治療となりますが、最近は抗がん剤の効果も大きく進歩しました。十数年前だと手術できないと診断されれば生存期間は1年余り。それが現在は3年近くまで生存できるようになりました」

【大腸がん編】8大がん第一線の専門医が語る「予防」と「治療」の完全マニュアル

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