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【胃がん編】8大がん第一線の専門医が語る「予防」と「治療」の完全マニュアル

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 がんのなかでも胃がんは日本人に特別多く、古くから毎年5万人近くが命を落としている。2015年の予測値も罹患数は13万3000人、死亡数は約4万9000人で、不動の上位だ。ただし他のがんと違うのは、主な原因が解明されていること。敵がわかれば対策もしやすい。その原因とは“ピロリ菌”である。

 がん研有明病院消化器外科の比企直樹胃外科部長が語る。

「ピロリ菌は10歳以下の子供のときに家族内の唾液や井戸水など汚染の可能性のある水を飲むことから感染します。いまは環境が整備されて若い方の感染率は落ちていますが、中高年だと6~7割の方が感染していると言われています。ピロリ菌の感染があると慢性萎縮性胃炎が起こりやすくなり、そこから胃がんへとなりやすい。病状をさらに進めるアクセル役となるのが塩分です。濃い塩分の食事により、慢性萎縮性胃炎を進めて胃がんができやすくなります」

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 ピロリ菌の検査と除菌は、2013年から保険適用となった。飲み薬を1週間続けるだけで除菌は完了する。

「除菌の成功率は70~80%ほど。ただし除菌したとしても、何十年も感染していてすでに慢性萎縮性胃炎が進行していれば、胃がんになりやすいことに変わりはありませんので、過去に感染者だった方も油断せずに注意が必要です」

©iStock.com

 最近、欧米型の胃がんが増えつつある。

「従来の胃がんは位置でいうと胃の中間から下にできるのが多い。一方で欧米型は『食道胃接合部がん』といって、食道と胃の境目くらいの上部にできる。胃液や十二指腸液などの逆流も原因ではないかと言われていますが、詳しいことはわかっていません。非常に治りにくく、早く見つけて早く治すしかない」

 胃がんの場合、進行しても自覚症状がほとんどないため、見つけるには定期的な検診が不可欠となる。

 今春からは自治体の検診内容が変わり、従来のX線検査(バリウム検査)に加えて、内視鏡検査(胃カメラ)も選択できる。間隔は2年に1回、対象は50歳以上になる予定だ。

「検診でベストなのは胃カメラです。しかし検診で全員に行うと、医療機関がとても足りません。最初の検診には、胃がんになりやすい方を見つけるABC検診(胃がんリスク検診)がいいでしょう。ピロリ菌の有無と胃粘膜の萎縮具合が採血だけでわかります。これで精密検査が必要となれば、胃カメラを受けてください。会社が行う検診もこの流れが増えています。合理的ですし、早期にがんを発見しやすい。

 胃カメラの頻度は、ピロリ菌が陽性か過去に陽性だった方は年に1回、陰性なら3年に1回程度で十分だと思われます」

 5年生存率は全体で70%、早期だと90%以上と治療法も進歩している。

「ごく早期のがんで、リンパ節などへの転移を絶対にしないタイプは、口から入れて胃の粘膜だけをはぎ取る内視鏡治療で終わります。現在は胃がん全体の2~3割が胃を切らない内視鏡治療です。リンパ節に転移の可能性があるステージⅠなら腹腔鏡手術、それ以上に進んだがんには開腹手術を行います」

 機能温存につながる研究も進んでいるという。

「胃の入口や出口、食欲を保つ物質を出している部分を残して手術すると、術後の体重減少や栄養障害が少なくなる。ただ残すのも勇気がいることで、正確な診断が重要になりますが、当院では早期がんに対する胃全摘は激減しています。

 抗がん剤は進行がんの術前や術後に使うほか、手術できない場合に単独で用います」

【胃がん編】8大がん第一線の専門医が語る「予防」と「治療」の完全マニュアル

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