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女優・大楠道代が振り返る「勝新太郎の“ちょっとおいで”作戦」

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2017/12/10
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「『痴人の愛』(67年)はいま観てもお洒落でしょう! ワンピースやコートなんかの衣装もオーダーメイド。撮影所時代はいまでは考えられないほど贅沢だったんですよ」

 そう大楠道代さんは主演作を振り返る。映画黄金期を飾った映画会社・大映。その創立75年を記念した特集上映が催される。今回、大楠さんの出演作『痴人の愛』と『新女賭博師 壺ぐれ肌』(71年)が上映予定だ。

「デビューのきっかけは叔父が広告代理店に勤めていた関係でモデルをやってまして。舛田利雄監督が『河内ぞろ どけち虫』(64年)の撮影で大阪にいらしていた際に目に留まったの。その続編にも端役で出て、東京の日活に連れて行かれ、吉永小百合さんの『風と樹と空と』(64年)に出演。この時、契約を結ぶ段になって、私は生意気にも日活を蹴っちゃった。女優になるつもりはなくて、憧れの石原裕次郎さんも間近に見られたし満足したんです(笑)」

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 翌年、大阪へ帰り短大生になった大楠さんを再び映画界へ呼び戻したのは勝新太郎だった。

「最初は若山富三郎さん、次に勝さんからオファーが来たんです。で、直接お断りをしに撮影所へ行ったの。そこで勝さんが『ちょっとおいで』と私を衣装合わせに連れて行ったら急展開。つい『やります!』って言っちゃった(笑)。豪商の娘の衣装があまりに綺麗だったから。勝さんの作戦勝ちでしたね」

「大映女優祭」

 大映では多い時には年10本の出演、「朝は現代もの、昼は『座頭市』や市川雷蔵さんの時代劇。何の映画に出てるか分からない」というほど多忙を極めた大楠さんだった。が、71年大映を離れフリーとなり、76年に結婚。女優活動を事実上、休止した。

「鈴木清順監督の『ツィゴイネルワイゼン』(80年)に参加したのは企画の魅力。衣装も芝居も、やりたいことは全部あの映画で演らせてもらえました。清順さんには遊ばせてもらったと言うのがいいのかな。撮影で仲良くなった原田芳雄さんとは、その後も打ち合わせもいらないくらいウマが合いましたね。次の『陽炎座』(81年)の時は清順流演出に悩んだ松田優作さんから『大楠さんは何か秘訣を知ってるはずだ!』なんてヤキモチ焼かれたなあ(笑)」

 その後は阪本順治、荒戸源次郎監督らの野心作に出演。仕事は「楽しそう」と思えるものが一番だと微笑む。

「『ツィゴイネル』で初めて私が私になれた。あのワクワク感は忘れられません。原田さんや清順さん、荒戸さんという仲間が先に逝ってしまったのは寂しい。でも今回、安田道代という私の前世の映画(笑)が上映されるんだから、これからも心躍る試みに参加できたらいいですね」

おおくすみちよ/1946年、中国・天津市生まれ。64年、本名の安田道代で『風と樹と空と』でデビュー。エキゾチックな美貌と演技力で大映のスター女優として活躍。大映倒産の71年フリーとなり、80年、『ツィゴイネルワイゼン』で日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を獲得したほか、受賞歴多数。

INFORMATION

『大映女優祭』
12月9日(土)~ 角川シネマ新宿ほか順次上映
http://cinemakadokawa.jp/daiei75-joyu/

取材・構成:岸川真

女優・大楠道代が振り返る「勝新太郎の“ちょっとおいで”作戦」

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