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抗がん剤治療をしていた医師も、自分は民間療法に頼ってしまうこれだけの理由

週刊文春「徹底検証 著名人がすがった『がん民間療法』」取材の裏側(中篇)

2017/12/05
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「がんが発覚する前、仕事人間だった私は、ストレスによる暴飲暴食で体調が悪化し、うつ病にもなりました。それに術後は人工呼吸器につながれて身動きが取れず、圧倒的な孤独や再発の恐怖に襲われたんです。でも、がんになった原因は私にあります。がんを再発させないためには、今までの生き方を180度変えるしかないと決意しました」

 そう話すのは、2006年に食道がんの手術を受けた織田英嗣さん(現在54歳)です。退院後、織田さんはがんを克服するため、玄米、野菜、きのこ、海藻を摂る食事療法や太陽を浴びて手から気を取り込む「毒出しエネルギー循環法」などに取り組みました。がん患者をサポートする「めぐみの会」を立ち上げ、現在、びわの葉療法、生姜療法、温熱療法など、自分でできる「お手当て」の体験会やがん患者による音楽会などを主催しています。

「がんは球根から出てくる芽のようなもの」

 前回、この連載で自然療法や気功療法などの民間療法を行ったがん患者さんの声を紹介しました。私自身、それらを体験させてもらって、「身体だけでなく精神にも癒しを与えているのは確かだ」と書きました。しかし、民間療法でなくても、心身の癒しになる方法は他にあります。なぜ民間療法なのでしょうか。今回、もう少し深掘りしてみたいと思います。

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 生き方を180度変えるため、民間療法に取り組もうと思った理由について、織田さんがさらに続けます。

「がんは、球根から出てくる芽のようなものだと思うのです。がんの三大療法(手術、放射線、抗がん剤)は、球根から出てきた芽を摘み取ってくれるかもしれません。ですが、がんになった原因は自分の忙しすぎた生活や暴飲暴食などにあります。その球根にあたる根本を改善しない限り、いずれ芽が出るように再発、転移していきます。ですから、がん患者は医者任せにせず、自分でやれることはやるべきだと私は思うのです」

医師に「もう治療をしなくていい」と言われても不安

 確かに、がん治療は手術、放射線、抗がん剤が一通り終わると、医師から「これで治療は終わりです。あとは普通に生活してください」と言われます。しかし、がんを経験した方々に話を聞くと「治療をしなくていい」と言われても不安で、「自分で何かをしないと、またがんになるのではないか」という気持ちに駆られる人が多いようです。

 通常のがん治療を行う病院は、今まさに治療をしている人への対応で精一杯で、治療が終わった人や積極的な治療ができない人にまで十分に対応する余裕はありません。それが、多くの人を民間療法に誘う要因の一つになっているのではないかと思います。

患者の顔を見ず、パソコン画面ばかり見ている医師への不信感

 もう一つ背景にありそうなのが、医療に対する不信感です。ある民間療法を受けていた70代の患者さんは、「大学病院の医師はパソコンばかり見て、患者の顔を見ない。どうせマニュアル通りの診療をされて、薬漬けにされる。だったら、自分で好きなようにしたいと思った」と話してくれました。

 大学病院の医師がみんな、患者を「薬漬け」にしようと思っているわけではないでしょう。しかし、医師の対応を「冷たい」と感じてしまうことで、元からあった医療に対する不信感が大きく膨らむことはあり得ます。

 一方、がんの民間療法を行っている人たちは、がんの三大療法のデメリットを強調することが少なくありません。とくに抗がん剤に対して、「効果がほとんどないのに免疫力を低下させて、命を縮めてしまうことが多い」などと説明することがよくあります。これに対して、自分たちが行っている民間療法は、逆に免疫力を高める「やさしい治療だ」というのです。

「抗がん剤は免疫力を低下させて命を縮める」と言われると……©iStock.com

 そう言われたら、ただでさえ病院の医師の対応に不満を感じ、度重なる辛い検査や治療で嫌な思いをしている患者さんの多くが、民間療法に惹かれてしまうのではないかと思います。実際、民間療法を受けてみると、施術者は患者さんに優しく、部屋も癒しの雰囲気がありました。病院にいるよりも、心地よいのです。