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楠木 建
2017/12/05

「休憩」こそ最高度の能動性が問われる

楠木建の「好き」と「嫌い」  好き:休憩  嫌い:癒し

「観る」より「やってみる」

 あくまでも個人的な好き嫌いの話として聞いていただきたい。

 僕は林山(りんざん)という雅号を持っている。画も書も俳句もやらないが、気が向いたので自分で勝手につけてみた。

 武田信玄の風林火山、「疾きこと風の如く、徐(しず)かなること林の如く、侵掠(しんりゃく)すること火の如く、動かざること山の如し」から風と火を抜くと林山となる。疾くもないし侵掠はあまり好みではないが、動かず徐かにしていることにかけては絶対の自信がある。

 出不精で興味関心の幅も狭く非活動的な日常を過ごしている。自分から能動的に取り組む趣味や種目はあまりない。それでも好きなこととなれば、観ているだけでなく自分でやってみようと思うタチである。

 子どもの頃に手品の出し物を観たときのこと。途中で手品師が「ここでちょっとどなたかにカードをシャッフルしてもらいたいのですが……」とか言うと、真っ先に手を挙げるタイプだった。目の前で繰り広げられる不思議が面白くてたまらない。早速自分でもやってみたいと思う。

 トランプと手品の本を買って練習する。そのうち人前でやりたくなる。最初は家族に無理やり見せて喜んでいたが、じきにそれでは我慢ができなくなり、小学校の「お楽しみ会」(いまはどうか分からないが、昭和時代は生徒が得意の出し物を披露する学級会のようなものがときどきあった)で手品をやらせてもらっては悦に入っていた。

 これまでも何度か話したが、僕の数少ない趣味は音楽である。たまには好きなアーティストの実演を観に出かける。ステージ上のパフォーマンスを客席から観ていていつも思う。「俺も混ぜてくれないかな……」

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 もちろん混ぜてくれない。ところが、ごく稀に例外もある。

 20年以上前のこと、ブルース・ブラザーズ・バンドが来日して、青山の「ブルーノート」(当時は今とは別の場所にあった)でライブをやった。映画『ブルース・ブラザース』もシカゴ・ブルースも大スキな僕は、大喜びで出かけて行った。

 ノリノリで最前列で踊りながら観ていたら、何と「お前、楽しんでいるな。出て来て一曲歌えよ!」とお声がけいただいた。欣喜雀躍してステージに上がり、ヴォーカル・マイクの前に立ってみると、右にはスティーブ・クロッパー(ギター。ブッカー・T.&ジMG’sの人で、つまりはオーティス・レディングの名曲「ドック・オブ・ザ・ベイ」を作曲してギターを弾いていた人)、左にはマット・マーフィー(ギター。映画の印象と違ってクロッパーもマーフィーもわりと小さな人だったのでびっくりした)、後ろにはルー・マリーニ(サックス)。残念ながらベースはドナルド・ダック・ダンではなかったが、それはこの際どうでもイイ。夢のような布陣で気持ちよーく「ノック・オン・ウッド」を歌わせてもらった。天にも昇る気持ちとはこのことである。