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【ヤクルト】戸田球場に舞い降りた1羽の燕 それを手に乗せたのは館山昌平だった

文春野球コラム ウィンターリーグ2017

2017/12/03
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若燕のように羽ばたく姿を

 優しく燕を運んだあの腕は、その3か月後にまたメスを入れる腕だった。肘と肩とにメスを入れ、通算9度目となる手術を館山は受けた。そうして何度でも、諦めずに挑戦を続ける傷だらけの戦士。その姿を見て若い戦士たちは育っていく。

 若燕を受け取ってびくついていた寺島は、その後一軍登板を果たした。結果はどうあれ、ルーキーイヤーに故障から立ち直って足がかりを作り、フェニックスリーグ、秋季キャンプ、ウィンターリーグと武者修業を続けている。他のリハビリをする選手も、育成の田川も、羽ばたく日を胸に期す。

 スワローズが空前の低空飛行を続ける時期に、戸田の地に舞い降りた燕は何やら象徴的だった。ファンはそのひ弱な姿にチームを投影しただろう。手にしたのが館山だったことも印象を深めた。

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「No Swallows, No Life.」と言いきった館山だ。スワローズを愛し、スワローズと共に過ごしてきた年月の分、燕そのものに対する愛情も並大抵ではないはずだ。残念ながら、助けた燕の恩返し、とはならず、低迷はこの後さらに一層暗黒の度合いを深めるのだが、ともあれこの日の戸田の情景を、ネット経由も含めて目にした者は決して忘れないだろう。

 燕戦士と燕の絵のような1シーンを。アカエリヒレアシシギの名は忘れても、人々はツバメの名を生涯忘れないだろう。ちなみに「シギ」というシギはいないが、「ツバメ」というのは標準和名だ。この燕は「ツバメ」なのだ。

 燕は燕。鴎や鷲や、ましてや鷹になどなれない。当然鯉にもなれない。だが燕らしさは脈々と受け継がれていて、ファンの心を捉えて離さない。それはチームカラーの温かさだったり、歳の差を超えた仲の良さなどによく表れている。燕らしさはそのままに、秋からはスパルタも加わって鬼に金棒、いやバット。今から来年が楽しみで、鬼も笑うが燕も笑う。ベテランの踏ん張りと中堅の頑張りと、若手の飛躍とが期待される来年は、今年よりも高く飛ぶ燕が見られるはずである。

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