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大人にも読まれる児童書づくりの工夫

『ワンダー』 (R・J・パラシオ 著)

2016/07/06
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 生まれつき顔に重い障害を抱えた10歳の少年・オーガスト。彼と彼を取り巻く人々の心の成長を、映画や音楽などカルチャーの話題を取り混ぜながら、ポップでさわやかな筆致で切り取った児童向け小説が、好調な売れ行きを見せている。

「さまざまな登場人物の視点で、世界が立体的に描かれている。出版を決めたのは、そんなプロットの良さ、物語の力に惹かれてのことでした。大人でも楽しめる内容だという確信があったので、ふりがななどは児童書のルールで編集しつつ、売り方の部分では、翻訳小説の棚にも置いてもらえるように考えていました」(担当編集の木村美津穂さん)

 刊行前にはダイジェスト版の小冊子を書店関係者向けに配布。Facebookに専用ページを設け、事前の反響を拾い上げた。刊行後にも、店舗や読者からの反響を小まめに紹介。相互作用を生む地道な活動が、ヒットの実を結んだ。また、児童書へのニーズの高まりも、売れ行きを後押ししたようだ。

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「児童書は読後感のよいものが多く、それでいて、根底には真面目な問題意識があります。ただ面白いだけではなく、考えさせられるところがある。そうした内容への信頼感から、今、児童書を手に取る大人が増えているのではないでしょうか」(木村さん)

 ハリウッド映画化が決まり、青少年読書感想文全国コンクールの課題図書にも選ばれた。家族で「夏の1冊」にしてみては?

ワンダー Wonder

R・J・パラシオ(著),中井はるの(翻訳)

ほるぷ出版
2015年7月18日 発売

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2015年7月発売。初版1万4000部。現在9刷20万部

大人にも読まれる児童書づくりの工夫

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