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2017 国内海外 推理小説十傑――ミステリーベスト10 海外編

2017 国内海外 推理小説十傑――ミステリーベスト10 海外編

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こちらもぜひ 海外編

ファインダーズ・キーパーズ』S・キング「アメリカ文学・少年・光と闇――これまでキングが描写してきたテーマが絡み合いながら変奏曲を歌う。ただのミステリーなら、キングが書く意味などない」(中山七里)

雪と毒杯』E・ピーターズ「雪の山荘ものの本格ミステリ、かつコージーな側面もある一冊。大きなトリックが二つも使われ、設定も話の運び方も名人芸」(北海道大学推理小説研究会)

氷結』B・ミニエ「冬のピレネー山脈という舞台がなかなかよい。謎そのものもよいが、主人公の造形や雰囲気づくりもうまく、今後に期待大」(田中芳樹)

青鉛筆の女』G・マカルパイン「移民国家アメリカの歴史上の〈分断〉をきわめて実験的に描く。私立探偵サム・スミダらの人生に思いを致し、目頭が熱くなった」(佳多山大地)

月明かりの男』H・マクロイ「冒頭から読む者を捉えて離さない緻密な描写、幾重にもつらなる物語の深み。謎解きの醍醐味を余すことなく伝える名著」(羽生田亜紀 平安堂書籍事業部)

ゴーストマン 消滅遊戯』R・ホッブズ「二十代で夭折した作家に哀悼の意を込めて。ラストシーンにシビレる」(福田和代)

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今年の海外ミステリー

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『13・67』が一位に選ばれたのはネタ(安楽椅子・密室・消失・誘拐など)がぎっしり詰まっているからだろう。トリッキーな設定と緻密なロジックだけでなく、ツイストとどんでん返しにみちた活劇小説の面白さもあるし、最後の短篇を読むと冒頭に戻りたくなる仕掛けもたまらない。年間ベストではなくオールタイム・ベストの傑作。

 複数の事件が同時進行するモジュラー型捜査小説の2、物語の迷宮ともいうべき3、社会派ミステリの7の作家はベストテンの常連であるが、1にはない深い人間ドラマがある(下品なフロスト警部ものにも)。

 逆に常連のM・コナリー(『ブラックボックス』)とJ・カーリイ(『キリング・ゲーム』)の佳作が圏外で、ディーヴァーが13位、キングが14位と低いのは、それだけ今年が豊作だったこともある。

 特にデビュー作なのにCWA賞最優秀新人賞&ゴールドダガー賞を受賞した4はロードノヴェル&犯罪小説&成長小説、暴力の詩人テランの5は箴言にみちた冒険小説で、実に懐が深く読ませる。この二作がベスト1と2でも驚かない。

海外部門11~20位

11.『黒い睡蓮』ミシェル・ビュッシ 集英社文庫

12.『約束』ロバート・クレイス 創元推理文庫

13.『スティール・キス』ジェフリー・ディーヴァー 文藝春秋

14.『ファインダーズ・キーパーズ 上下』スティーヴン・キング 文藝春秋

15.『ゴーストマン 消滅遊戯』ロジャー・ホッブズ 文藝春秋

16.『怒り 上下』ジグムント・ミウォシェフスキ 小学館文庫

17.『ジャック・グラス伝 宇宙的殺人者』アダム・ロバーツ 早川書房

18.『雪と毒杯』エリス・ピーターズ 創元推理文庫

18.『青鉛筆の女』ゴードン・マカルパイン 創元推理文庫

20.『渇きと偽り』ジェイン・ハーパー 早川書房

 ただ近年の読者の傾向として、ミステリとしての仕掛けとひねりにみちたプロットが愛されることは1以外にも、語りを重層させる8と18(『青鉛筆の女』)、叙述トリックがさえている11をみればわかる。一方、体が痺れるような活劇小説の最高峰、M・グリーニー『暗殺者の飛躍』やL・チャイルド『ネバー・ゴー・バック』等がもう一つ人気がないのが寂しい。(池上冬樹)

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