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牧野 知弘
2017/12/12

銀行員が「祝日なので説明できません……」こんな働き方改革はおかしい

ビジネスの現場で仰天した哀しき日本人の“忖度”

 2016年8月3日に発足した第3次安倍第2次改造内閣では政策の柱の一つとして「働き方改革」を掲げた。同年9月には内閣官房に「働き方改革実現推進室」を設け、この働き方改革が、やはり安倍政権が目指す「一億総活躍社会」の実現に向けた最大のチャレンジだと位置づけた。

「一億総活躍社会」というのはわかったような、わからないようなスローガンであるが、政府によれば、少子高齢化が進む中でも「50年後も人口1億人を維持し、職場、家庭、地域で誰しもが活躍できる社会の実現」を目指すものだという。

 日本の総人口は前回の国勢調査から減少に転じ、いよいよ人口減少社会が到来すると話題となったが、実は「働き手」と称される、15歳から64歳までの生産年齢人口の推移をみれば、すでに20年も前の1997年の8699万人を境にその数は減少し続け、2016年現在では7665万人、最近では毎年100万人も減少している事態に陥っているのだ。

 つまり、日本経済を維持、発展させていくためには、この深刻な労働力不足を解消する手立てが必要であるのは火を見るよりも明らかである。そのために「一億総活躍社会」にする必要があるというわけだ。

「一億総活躍」しなければ経済が持たないのに「働き方改革」?

 しかし、一億総活躍しなければ日本経済が持たないということと「働き方改革」とがどのように繋がるのかはどうもぴんと来ない人も多いだろう。働き手が減少するのならば、日本人は今まで以上にガムシャラに働かなければならないはずだと、考えるのが普通だと思われるが、どうも違うらしい。

 政府が考える労働力不足への対応には以下の3つがあるという。

 (1)働き手を増やす
 (2)出生率を上げる
 (3)労働生産性を上げる

 (1)はこれまで主に成人男性が働き手の中心だったのを女性や高齢者に広げようというものだが、すでに女性は1997年の男女雇用機会均等法の改正によって男性とほぼ同等に働くことができるようになっている。狙いの中心はむしろ高齢者であろう。

 (2)は出生率を高めて将来的な働き手の人口を増やそうという試みであるからわかりやすいものの、何といっても人間は「働く」ことができるようになるまで月日を要する生物であるので即効性を期待することはできない。

 そこで問題となるのが(3)の労働生産性ということになる。労働生産性を上げるためには、そもそも働き手が少ない職場では働き手を増やすことで仕事の効率をアップさせることができるが、これは(1)と同じことを言っているのに過ぎない。非正規雇用と正規雇用といった格差をなくし、同一労働同一賃金を実現することも労働生産性向上につながるというが、非正規雇用の人は正規雇用でないから働かないというわけではなく、むしろ正規雇用の人以上によく働く人が多い。

 そこで登場するのが長時間労働に対する制約ということになる。長時間労働は精神的にも肉体的にも影響が大きく、こうした労働によって受けるストレスが人々の健康を害することになり、ひいては労働生産性を低下させるという議論だ。

ビジネスの現場で首をひねるような事態に遭遇することが増えてきた

 この議論は、ストレスが高じて自殺に追い込まれる悲惨な事例をみるまでもなく、正論であり、長時間労働が強制されるような職場があってはならないことについては論を待たない。

 ところが、ビジネスの現場では最近、どうも首をひねるような事態に遭遇することが増えた。先日、ある不動産会社の個人投資家向け「不動産投資セミナー」の講師を仰せつかって、最近の不動産マーケットの概況、投資を行う場合の注意点などを解説する機会があった。