昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

「どうして俺らが一生懸命働いて、他の地域を食べさせなきゃいけないのか」――カタルーニャ独立問題の本質とは

旬選ジャーナル 目利きが選ぶ一押しニュース

▼〈カタルーニャの次はどこか、「富める離脱クラブ」の脅威〉11月12日、ロイター通信(筆者=John Lloyd)

 先月、バルセロナのピカソ美術館の近くのバーで飲んだとき、ルーマニア人のバーテンダーとカタルーニャ独立問題について話した。彼はこう言っていた。

「なんだかんだ言っても、経済だよ。移民の僕から見れば、抑圧の歴史とかカタルーニャ語とかは二次的なもの。どうして俺らが一生懸命働いて、他の地域の人々を食べさせなくてはいけないのかって、要するにそういうことみたいだ」

バルセロナのカタルーニャ独立運動集会 ©iStock.com

「カタルーニャの次はどこか、『富める離脱クラブ』の脅威」という記事はまさにその辺のところを突いている。欧州を混乱させている離脱とナショナリズムのトレンドを主導しているのは、低中所得層のいわゆる「取り残された人々」とそれを先導する極右政党だけではなく、国家の「後ろ向きの政策」に苛立つ、裕福な都市の性急な地域主義も牽引車になっていると書いている。

 同コラムはこれを「富裕層の『離脱クラブ』」と呼び、ドイツ南部のバイエルン州(7月の世論調査で3人に1人が独立を支持)、イタリア20州の中でも特に裕福な北部ロンバルディアとベネトの2州(両州合わせるとイタリアのGDPの約3割を占める)をその予備軍として挙げている。

 EU行政のお膝元であるベルギーでも緊張が高まっているそうだ。富めるフランドル地方が中央政府に権限委譲を進めるよう圧力をかけつつあるという。

 一方、欧州における独立・離脱トレンドの先駆けのように思われていたスコットランドでは、2014年の独立をめぐる国民投票で独立派を率いたSNP(スコットランド国民党)と同党党首でスコットランド首相のニコラ・スタージョンの人気が失速している。これは北海油田の埋蔵量がそれほどバラ色ではないとわかったことや、石油価格の下落(2014年に比べると半額になっている)に端を発している。さらに、英国から独立しても、EUが両手を広げて待っていてくれるわけではないとわかったからだ。たとえ国際市場で「ぼっち」になる可能性があっても独立したいかと突きつけられると、あれほどのナショナリズムの盛り上がりも沈静化するのである。

 フランスでもコルシカ島、ブルターニュ地方に独立の機運はある。が、これらの地域の経済はフランスの平均的1人当たりGDPと同程度なので、独立支持者は増えているとはいえ、まだ少数に留まっている。

 つまり、独立・離脱運動が危険なまでに高まっているのは、「富めるクラブ」か「取り残されたクラブ」だということになる。双方とも、中央政府による後退的な政策の犠牲になるぐらいなら、地元のポピュリスト政党の手に委ねてでも自分たちで主権を持ちたいと考えているという点で同じだ。

「後ろ向きの政策」が、EU主導の緊縮財政であることは明らかだ。財政均衡を最優先にして増税と財政支出削減を進め、景気を後退させてしまったおかげで、スペインでは若年層の半分近くが失業しており、イタリアでも35%を超えている。そうした国では、富める人々は「いつまで我々が税金で彼らの面倒を見るんだ?」と怒るし、若年層や低中所得者層は「いつになったら景気はよくなるんだ」と憤る。「出て行きたい」と言っているのは彼らなのだ。

 これは2008年の金融危機を緊縮財政で乗り切ろうとしたツケであり、社会の歪みが明らかになっても軌道を修正しない頑迷さのツケである。

 EUがそれに気づかない限り、彼らはただナショナリズムの退潮を願う以外になす術がない。