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連載春日太一の木曜邦画劇場

春日 太一
2017/12/12

中条きよしの魔性の色気 「流し目」で背筋が凍る!――春日太一の木曜邦画劇場

『新 極道の妻(おんな)たち 惚れたら地獄』

1994年作品(105分)/東映/2800円(税抜)/レンタルあり

 先日、中条きよしにインタビューさせていただいた。

 中条といえば歌手としても役者としても、いつも「昭和の夜の男」を感じさせる、大人のムードを漂わせている。当人もそれは意識しているようで、立ち姿、座り姿、目線の動かし方、着こなし……隅々まで意識を配って、色気や粋を表現しようとしているのだという。その象徴的な役柄といえるのが、彼の代名詞であるテレビ時代劇「必殺」シリーズで演じた三味線屋勇次だろう。三味線糸で首を絞めて相手を殺す「仕事人」役なのだが、その際の魔性ともいえる色っぽさが、同時に見る側の背筋を寒くさせ、殺し屋としての凄味を伝えていた。

 悪役になっても、それは変わらない。「卑怯なことをする場合も芝居は二枚目であった方が面白い」という考えの下、粋で色気があり、だからこそ強くて憎らしい――そんな役作りをしている。今回取り上げる『新 極道の妻たち 惚れたら地獄』は、悪役・中条きよしの魅力を堪能できる一本だ。

 岩下志麻主演の人気シリーズの一本である本作で中条が演じるのは、夫に代わって大阪のミナミで組を取り仕切るヒロイン・芙由(岩下)の前に立ちはだかる、キタの巨大組織・侠和会を率いる坂本だ。

 予告編の段階で、中条は迫力十分。ほんの少ししか映らないのだが、その際に見せる三味線屋勇次ばりの流し目の色気によって、一筋縄ではいかない切れ者ぶりを一瞬のうちに表現、岩下との対決への期待を高めていた。

 そして期待通り本編でも、決して出番は多くないものの、圧倒的な貫禄の岩下を相手にしても当たり負けしない存在感を見せつけてくれている。

 両者が初めて対面する場面が、まず凄い。自分の組員が侠和会の構成員を殺したことで、芙由は坂本に詫びる。坂本はソファでタバコを吹かしながら芙由の指詰めを眺めているのだが、この場面、中条はスーツ姿で一言もセリフを発さずに「あの流し目」を見せるのみ。そのクールでダンディなたたずまいが、岩下との間に流れる張り詰めた緊張感を静かに盛り上げていた。

 それはその後の出演場面も同じだ。例えば芙由の子分(山下真司)を脅迫する場面も、動くのは子分や妻で、自身は黙ってソファでタバコを吸うのみ。その計算され尽くされた二枚目ぶりが坂本をただ憎々しいだけの悪役ではない怜悧な男として映し出し、芙由を追い込む強大な敵としての凄味に説得力を与え、物語をスリリングなものにした。

 悪役もビシッと決まることで観る側のカタルシスはより高まる。中条きよしの芝居がそう教えてくれる作品だ。