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櫻井よしこが106歳の母を介護して考えた「日本的家族のあり方」

2018/05/04

専門家を頼りながら生活を組み立てる

 そのときから、仕事と介護の2つに挑戦してきました。自宅は仕事場を兼ねていますので、仕事の合間合間に、母の介護をするつもりでした。母は自力では寝返りも打てないため、24時間態勢で見守る必要があります。また、誤嚥性肺炎などを起こさぬよう、食事も喉に通りやすく、しかも栄養バランスまで細心の注意を払って作らなければなりません。最初の頃、私はとにかく持てるだけの力を振り絞って頑張りました。

 しかし、いくらひとりで頑張っても、自分自身の生活を整えなければ、私自身が参ってしまうことに気がつきました。私が倒れたら、元も子もありません。

 そこで、専門家に任せられるところはお任せし、私は母の様子を全体的に把握することに集中するよう、発想を切り替えました。母には泊り込みでお世話をして下さる介護士の方をつけました。夜中も何回か起きて必要なお世話をして下さいます。私が出張で朝早く家を出たり、夜遅く帰って来たりするときも安心して任せられる人たちです。食事は専門の方が栄養バランスを考えながらメニューを組み立て、調理もしてくれています。私は毎日こまめに母の様子を見に行き、声をかけます。母の顔を見ていると、どこか異状がないか、何か足りないものはないか、自然とわかってくるのです。

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櫻井よしこ氏 ©細田忠/文藝春秋

家族だからこそわかること

 実際に介護をしてみると、母娘だからこそわかる感覚があることに気づきます。たとえば母の好物は、私はどんどんお口に放り込みます。介護士の方たちは誤嚥性肺炎になるのではとハラハラするのですが、母は美味しそうに食べてくれます。

 母の様子を見ていると、高齢者は家族と一緒に過ごすのが一番望ましいと実感します。家族の関係性には、他人にはわからない領域が存在します。介護は時として、その領域のなかに踏み込むことが求められます。私も他人のお母さんをお世話するような場合、自分の母に対するような思い切った判断はできないかもしれません。

 かつての日本社会は大家族制でした。家族の誰かが寝込んだり認知症になったりしても、ほかの誰かが順番にお世話をする仕組みが機能していました。お年寄りは子や孫に囲まれて最晩年を過ごし、そこで文化や価値観の伝承もおこなわれてきました。これは非常に優れた家族のあり方でした。いま急にその頃の家族形態に戻れと言われても難しいものがありますが、日本の伝統的な家族システムを見直す努力が必要ではないでしょうか。

©iStock.com

 安倍政権は少子化や介護施設不足に対応すべく、3世代同居世帯を税制面で優遇する「3世代同居推進政策」を進めています。これは3世代同居が可能な世帯にとっては非常に有効な施策です。皆がみな同居可能とは限らないという現実がありますが、さらなる軽減税率を検討するなど、3世代が同居しやすい環境整備をぜひ強力に進めてほしいと思います。