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橘 玲
2018/01/12

ビットコインは夢の通貨か。国家に嫌われテロ組織に好まれる理由とは

 ビットコインの市場が活況だ。投機で語られることが多いが、通貨としてのメリット、デメリットはどんなところにあるのか。経済問題に詳しい作家の橘玲氏が、ビットコインの本質をわかりやすく解説する。(出典:文藝春秋オピニオン 2018年の論点100

開発者サトシ・ナカモトは謎の人物 

 ビットコインは2009年にサトシ・ナカモトという謎の人物が開発し、2010年5月、フロリダ州のプログラマが1万ビットコインとLサイズのピザ2枚を交換したのが最初の取引とされる。Lサイズのピザ1枚を2500円とするなら1ビットコインの価値は0.5円。それが2017年9月には一時5000ドル(約55万円)を超えたから、その価格は7年間で100万倍になったことになる。このすさまじい投機性が一攫千金を目指すひとびとを熱狂させたことはまちがいない。

 しかしここでは投機商品となった現状から少し距離を置き、ビットコインの「イノベーションの本質」を考えてみたい。

ビットコインは実際の「通貨」として手にとることはできない ©iStock.com

 ビットコインの最大の特徴は「中心がない」ことで、貨幣を発行する中央銀行を必要としない。「国家に管理されない通貨」は、オーストリアの経済学者フリードリッヒ・ハイエクが早くも1970年代に『貨幣発行自由化論』として構想し、90年代後半のインターネットバブルの時期にさまざまな試みがあった。

 そのなかにはネット上にマルタ騎士団のようなヴァーチャル国家を設立したり、歴史の偶然でどこの国にも属していないイギリス沖合の小さな島を購入して「国家」にするというファンタジーにちかいものもあり、最終的に残ったのは「イーキャッシュ」と「イーゴールド」だった。

電子通貨「イーゴールド」は成功していたが……

 イーキャッシュは、支払い側が銀行を介して暗号化された電子貨幣を送り、受け取り側が公開鍵暗号の技術を使ってそれを復号化して使用する、というものだった。だがこの方式は、すぐに障害に突き当たる。貨幣の再使用のたびに暗号化が必要なことや、暗号が解読されれば貨幣市場全体が崩壊してしまうという技術的な問題もあったが、最大の難問はごく一部の開発者が無限に貨幣を発行できることだった。これでは、国家のくびきから逃れて独裁者の僕(しもべ)になるようなものだ。

 それに対してイーゴールドは、金(ゴールド)を担保に貨幣を発行することでこの問題をクリアしようとした。貨幣需要が増すと発行者はそのぶん金を買い増さなくてはならず、貨幣の信用が守られるのだ。

 じつはビットコイン登場前に、電子貨幣として唯一流通に成功したのがこのイーゴールドだった。日本の電子両替商で現金(円)を金相場でイーゴールドに替え、ネット上でそれを第三者に譲渡したり、アメリカの両替商を使ってドルに替える。イーゴールドの最大の売り文句はすべての取引が匿名で完結することだったが、そこにもいくつかの障害があった。

 最大の懸念は、中央銀行とは異なるとはいえ、貨幣を発行する主体があることだった。その会社は詐欺でないことを示すため、「通貨発行量に見合う金を保有している」との大手監査法人の証明書を公開していたが、その大量の金塊はどこか(おそらくはアメリカ)に保管されている。会社の所在地や代表者もわかっているのだから、国家はいつでも金塊を差し押さえることができるのだ。