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橘 玲
2018/01/12

ビットコインを生んだ「ブロックチェーン」とは

 ビットコインは、ブロックチェーンというイノベーションによって、このふたつの課題を見事に解決した。

 まず、暗号化によらず、特殊な計算によって過去の取引内容を検証することで貨幣の二重使用を不可能にするとともに、その計算を行なうマイナー(採掘者)のみが新規の貨幣を発行できるようにして通貨の膨張を防いだ(したがって原理的にはデフォルトも通貨危機もない)。

 さらに、すべての取引がセンターサーバーを介さない分散型のP2P(Person- to-Person)で行なわれることで、中央の管理者を完全に排除した。ビットコインの中核には十数人の開発者グループがおり、中国には大手のマイナーが集まっているが、仮に彼らがすべていなくなっても通貨市場は存続できるのだ。

「こんなことができるとは誰も思わなかった」という意味で、ブロックチェーンがテクノロジーの歴史を画するブレイクスルーであることはまちがいない。未来に大きな可能性が広がっているからこそ、多くのひとがこの“実験”に夢中になるのだ。

イノベーションが通貨の課題を解決した ©iStock.com

ライバルは国家なのか

 だが、だからといって、ビットコインに弱点がないわけではない。

 ひとつは相場が乱高下することで、現状では商品取引などの決済手段として使うのは無理がある。

 もうひとつはビットコインを現金と交換し、管理する「取引所」の存在だ。ビットコイン市場は仮想空間にあって国家が介入できなくても、取引所はそれぞれの国に所在するリアルな会社だから、国家が取引記録を押収したり、事業を停止させることができる。そして実際に、中国では仮想通貨が金融市場の攪乱(かくらん)要因と見なされ、こうした事態が起きた。

911以降、国家がテロ組織の資金源を取り締まる動きが強まった ©田中茂/文藝春秋

 じつはイーゴールドが消滅したのも、捜査当局によって電子両替商が次々と摘発されたからだった。

 金を担保とする匿名取引を可能にしたイーゴールドは、やがて麻薬や武器などの非合法取引に使われるようになった。決定的なのは2001年の同時多発テロで、テロ組織がイーゴールドを利用して資金のやりとりをしていたことが判明して、電子両替商は反社会的存在と批判され事業をつづけられなくなってしまった。こうして、一時はかなりの取引量のあったこの野心的な電子貨幣は、最後はマルチ商法などの詐欺の道具となって消えていったのだ。

 もちろんこれは、ビットコインも同じ運命を辿るということではない。だが、国家が自分たちで管理できる代替電子貨幣を発行し、邪魔なビットコインの取引所を権力によって強制閉鎖させる未来は、それほど荒唐無稽なものではないだろう。

 新たなイノベーションがこのボトルネック(システム上の制約)をクリアしたとき、ビットコインは真の「地球通貨」になるのかもしれない。