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ユニクロ潜入・横田増生×東京新聞・望月衣塑子 ジャーナリストの“嫌われる勇気”

対談 ジャーナリストの“嫌われる勇気” #1

note

記者会見で徹底して嫌われるのは、私たちの共通点ですね

横田 僕がこの前ヤマトの会見に出席したときも、「決算の質問だけにしてください」と釘を刺されるんです。でも、僕が一番聞きたかったのは、未払いのサービス残業代が200億円以上もあるのに、社長一人辞めないってどういうこと? ということ。ふざけんなと。社長も会長も合わせて4人ぐらい辞めろというのが僕の主張なんです。でも、その社長が出てくる会見では僕、絶対に当たりませんから。

望月 記者会見で徹底して嫌われているのは、まさに私たちの共通点ですね(笑)。

 

横田 嫌われているがゆえに、ヤマトの広報には僕の担当者らしき人がいるんです(笑)。この前の決算会見に僕が姿を現すと、「横田さん、お茶行きましょう」って外に連れ出された。本当は行く気はないんだけれど、付き合いも長いから一緒に行くんです。そうしたら、僕の『ユニクロ潜入一年』の著者インタビューのプリントアウトを見せながら「横田さん、ここで『もう僕はたぶんこういう潜入取材はしない』って語ってますよね。もう潜入取材しないって本当ですか!?」って。

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望月 うれしそうな顔で逆取材されたんですね(笑)。

「あ、本音が言えないんだな」

――僕はライターの仕事をしているのですが、インタビューで相手の方を怒らせるのは、記事が載らなくなってしまう可能性があるので、けっこう恐怖なんです。でも、横田さんは平気で取材相手を怒らせますよね。

横田 いや、怒らせるのは望月さんの方がお得意かと(笑)。

望月 そうですね(笑)。でも、私も相手を気持ち良くさせてコメントを取りたいのではなく、相手が聞かれたくないことを聞かなければいけないという気持ちでいます。それから、番記者さんたちは普段、菅さんに情報をもらう分、本当は聞きたいけど聞けないということがあると思います。モリカケ問題があれだけ盛り上がっていても、「問題ない」と言われてしまうとシーンとしているわけですから。日々の関係上、厳しい質問が難しいんだろうなと思います。じゃあ、やっぱり私しかツッコめないなと。たとえ答えを聞けなくても、何度も質問を繰り返していれば、「あ、本音が言えないんだな」ということはわかりますし、伝わりますよね。そういう姿勢が必要だと思っています。

 

横田 記者は好かれることが目的じゃなく、聞くことが目的なので、相手に好かれても仕方ないんですよ。聞いて好かれるなら好かれても良しだし、嫌われるなら嫌われても仕方がないと思う。聞くことはやっぱり聞くという姿勢でいますから、そうすると煙たがられます。

望月 仕方ないですよね、仕事ですから。本当のことを聞くために、少なくとも隠されている何かに辿り着くために、菅さんに嫌な表情をされるのはしょうがない。たとえばこの間、森友学園の国有地購入「8億円超の値引き」については根拠不十分と、会計検査院がはっきりと回答を出しました。国が3割から7割も過大にゴミの量を積算していたと発表しているのに、その後の会見では「評価によって幅があると報告でも出ております」と菅さんは言うわけです。私が例によって「問題では」と質問しても「問題ない」の繰り返し。こうなると、やっぱり腹が立ってきますよね。しかも、私以外にも朝日新聞の記者も加勢してけっこう質問を重ねていたのにですよ。「それは違うだろーっ」って、誰かが言わないと、相手の言いっぱなしで終わります。

「まさに嫌われる勇気ですよ」

嫌われるようなことを追求しないと「影」の部分は変わらない

横田 ユニクロに関する本って、僕の本(『ユニクロ帝国の光と影』)の前に10冊以上出ているんですよ。でも、ほとんど全部ゴリゴリゴリ(ゴマスリのポーズをしながら)という本ばかり。それはそれでいいんだけれども、それだけっていうのはどうなの? 僕の本も批判だけしたいわけではないんですよ。タイトルに「光と影」と書いてあるとおり、ユニクロの良い部分もいっぱい書いてある。表紙で柳井さんの顔は赤く塗っちゃったけど(笑)。そのせいなのか、労働問題のところだけを取り上げられて訴えられたんです。しかし、嫌われるようなことを追求していかないと「影」の部分は何も変わらない。政治も経済も、ジャーナリストは嫌われるくらいがちょうどいいはずなんですけどね。

望月 同感です。嫌われて結構。それが記者の本分だと思います。

後編につづく

ユニクロ潜入一年

横田 増生(著)

文藝春秋
2017年10月27日 発売

購入する

構成=大山くまお
写真=三宅史郎/文藝春秋 

横田増生(よこた・ますお)
1965年、福岡県生まれ。アイオワ大学ジャーナリズムスクールで修士号。93年に帰国後、物流業界紙『輸送経済』の記者、編集長を務め、99年フリーランスに。著書に『潜入ルポ アマゾン・ドット・コム』(朝日文庫)、『評伝 ナンシー関「心に一人のナンシーを」』(朝日文庫)、『中学受験』(岩波新書)、『ユニクロ帝国の光と影』(文春文庫)、『仁義なき宅配 ヤマトVS佐川VS日本郵便VSアマゾン』(小学館)などがある。

望月衣塑子(もちづき・いそこ)
1975年東京都生まれ。東京新聞社会部記者。慶應義塾大学法学部卒業後、東京・中日新聞に入社。千葉・神奈川・埼玉の各県警、東京地検特捜部などで事件を中心に取材する。著書に防衛省取材をもとにした『武器輸出と日本企業』(角川新書)、『武器輸出大国ニッポンでいいのか』(共著・あけび書房)などがある。最新刊は『新聞記者』(角川新書)。

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