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連載桜庭一樹のシネマ桜吹雪

桜庭 一樹
2017/12/17

『マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)』――桜庭一樹のシネマ桜吹雪

一人っ子って、つまり

 兄弟がいたらどんな生活だったかなぁ? 一人っ子なので、よく考える。自分の下に生まれなかった子が二人いたらしいので、もし生まれていたらどんな大人になっただろう、三人でどんな話をしたのかな、と想像していると、寂しいけれども、楽しくもある。

 この映画は、彫刻家を父に持つ三兄妹を描くファミリードラマだ。父は芸術一家にしたいと夢見たものの……?

 一人目の妻の子である長男は、「否定」される子だ。いいことをしても、弟の手柄だったことにされたりするから、切ない。音楽家を目指していたが、現在は無職だ。その下の長女は「無視」される子。大人になったいまも、父から話しかけられることがあまりない。二人目の妻の子である次男は、兄姉とは逆に、「肯定」されて猫可愛がりされた子。でもいちばん反抗し、芸術にも背を向けて、会計士になった。

 わたしは、兄弟がいないのに、どの人の気持ちも立場もよくわかった。わかりすぎてびっくりするほどだった。観終わってハッとした。一人っ子って、つまり、「兄弟全員の役を一人で演じる子」だったのかもしれないぞ、と。

 思い返してみると、自分は否定の子、無視の子、肯定の子の役を、全部やってきたんだなぁ。こう、まぬけな阿修羅像みたいに!? ということは、生まれていない弟妹も、わたしの中にいるのか……。

 

 一家の中で、わたしは長女がとくに好きだった。透明人間扱いされようと、ちゃんと親の面倒を見ている。だがある日、その理由を聞かれると、「いい人なんじゃなくて、私は“生真面目”なだけなの……」と、深い深いため息をついた。子の宿命を見るようで、忘れ難いシーンだ。

 父役をダスティン・ホフマン、兄役をアダム・サンドラー、弟役をベン・スティラーが演じている。兄にも姉にも、弟にも妹にも、もちろん一人っ子にもお勧めの、大人向けの苦い作品です。

INFORMATION

『マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)』
Netflixで配信中
https://www.netflix.com/jp/title/80174434