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連載近田春夫の考えるヒット

変わらないMISIA “歌姫ブーム”とはなんだったのか――近田春夫の考えるヒット

2017/12/20
絵=安斎肇

『君のそばにいるよ』(MISIA)/『ASH』(LiSA)

 今週編集から送られてきたCDの一枚がMISIAだった。

 その名を見てなんだか懐かしい気持ちに襲われた。丁度、この連載の始まった頃(97年)に盛り上がりをみせていた、和製女性R&Bシンガー、通称ディーバのブームの立役者のひとりとして、チャートによく登場したりしていたことを思い出したのだ。

 今は昔。20世紀の終わりには“ヒップホップ以降のソウルミュージック”の担い手として、我がシーンにおいて結構な数の女性歌手がデビューをしたものだ。ただ、当初盛んだったその流行歌としての新しい試みや実験的なアプローチも、結局“売り上げの増加”には結びつかなかったのだろう。気がつけば、スタイルの革新性などの競い合いよりは、普通な意味での歌唱力に重きをおいたプロデュース/作品が幅を利かすようになっていった。

君のそばにいるよ/MISIA(SONY)1998年にデビュー。世界累計7000万部を誇るコミックの実写映画『鋼の錬金術師』主題歌。

 MISIAとて決して例外ではない。かの『Everything』(00年)あたりで、もはや既に曲調はコニー・フランシス的“シックスティーズ”の焼き直しみたいなものとまでいいきってしまえば、そりゃオーバーかもしれないけれども、音としての冒険は「もうやめた!」ような印象さえ受ける、超無難もとい王道な熱唱の世界にシフトし始めているのだ。

 業界全体のそうした傾向への加速度的な収斂とともに、“歌姫達のフィーバー”も終焉を迎えたのだった。

 あの熱狂ぶりはなんだったのか? 思いつくままに、それを“バブルの残滓”といってしまうのは、いささか安易過ぎて気がひけもするが、たまさかこうして振り返れば、そんな時代ももうはるか遠くになりにけり……である。おっと、柄にもなく感慨にふけってしまいました(笑)。

 てな訳で、あまり音響の側面には期待などしていなかったMISIAの新曲だったが、聴いていると、イントロから最後までほぼずーっと鳴り続く、いわゆる“ブリティッシュニューウェーブ”の全盛期にはよく聞かれた、ギターともシンセともつかぬ8分音符の刻みの音が、心地よく耳に残る。

 サウンドプロダクションの妙が“売り”というjpopもなかなか多くないなか、エイティーズっぽいデジタルな味わいをうまく今様の音に昇華させまとめた、このアレンジのセンスは悪くないと、俺はそう思ったのである。

 それにしてもMISIA変わってないよね歌い方! と思う。

 如何なバックトラックを従えようともである。たっぷりと込めた思いと共に、これでもかこれでもかと、切なくもドラマティックに歌い上げ歌い切るボーカルわざは超健在なのだった。それこそその唱法こそまさに『Everything』以来伝統のお家芸と認めるに俺もやぶさかではない者だが、たまには、らく~に力を抜いて歌うMISIAも味わってみたい、そんなことが頭のどこかをよぎっていった『君のそばにいるよ』なのではあった。

ASH/LiSA(SONY)2011年にデビュー。大人気ノベルゲーム『Fate/stay night』派生作品であるアニメ主題歌。

 LiSA。

 歌向きなこの声、系譜的にはYUKIなんですかね?

今週の告知「オレがMC兼サポート演奏兼PR係をしておりますGS(グループサウンズ)フェスティバルの件、まだここだけの話なんだけど、パンフレットにないシークレットな大物氏の登場もあるよ。色々あって伏せといてと言われてるんで名前は勘弁」と八面六臂に活躍する近田春夫氏。「12月18日、品川区大井町きゅりあんホール。お忘れなく!」