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カナダで新発見した、地球最古(約40億年前)の生命の痕跡

これまでの記録を1億年以上も更新した

2017/12/19

 この地球に生命が誕生したのはいつのことか。地球科学の研究者にとって、生命の起源は最大の探求テーマです。

 私たちは地球最古と考えられる生命の痕跡を新たに発見し、9月発行の英サイエンス誌「ネイチャー」に論文を発表しました。その痕跡は、およそ39億5000万年前以前に海の底にできた堆積岩(砂や泥が堆積して固まった岩石)に残されていました。これまで38億年前の生命の痕跡が地球最古とされてきたので、それを1億年以上も更新することになります。

 38億年前よりも古い堆積岩や溶岩が地上に露出している場所は、地球上に6カ所しか確認されていません。その1つであるカナダ東部のラブラドル半島のサグレック岩体に私たちは2011年から13年まで毎年夏に1カ月ほど滞在しました。ここはイヌイット自治区で景色の美しいところですが、腹をすかせたホッキョクグマが、うろうろしているので、熊撃ちのハンターに必ず同行してもらいます。近寄ってくる熊をライフルで追い払ってもらいながら、私たちはハンマーで堆積岩を叩き割っては背負い、歩きつづけます。そうやって毎年1トンほどの岩石を日本に運んできました。

現地での作業風景 写真提供:東京大学小宮剛准教授

 採取した堆積岩は、機械でスライスして厚さ30ミクロン(1ミクロンは1000分の1ミリ)の薄片にします。顕微鏡で観察すると、そのなかに数ミクロンから数10ミクロンの黒い斑点状のグラファイト(炭素の結晶鉱物)が見つかることがあります。グラファイトは炭素12、炭素13という重さが異なる2種類の炭素から構成され、その比率が現在の生物と同じ程度に炭素12に富んでいれば、生物由来であるといえます。

黒い斑点状のグラファイト 写真提供:東京大学小宮剛准教授

 堆積岩の薄片からグラファイトを見つけたのは、論文の筆頭著者でもある当時4年生だった学生です。グラファイトがあるのは想定内でしたが、この一帯の堆積岩は後から入ったマグマによって高温にさらされており、生命の痕跡が失われている可能性もありました。炭素12の比率が十分に高くないと生物の痕跡とはいえません。分析した結果、炭素12に富んでおり、これは生物の痕跡と見て間違いないと確信しました。

 その成果を論文にまとめ、「ネイチャー」に投稿したのは2016年1月です。「ネイチャー」という科学雑誌は、その後に物議をかもすような先進的な論文を載せるのが特徴です。私たちの論文は、編集者チェックはすんなりクリアしましたが、次の専門家たちによる査読で引っかかりました。論文中で「この部分は生命由来ではないグラファイトである」とちゃんと断っているのに、「この部分は生命由来ではない」と指摘されていたのです。私に言わせればトンチンカンでした。

 昨年4月頃に差し戻され、少しデータを加えて12月に再投稿したら、2度目はすぐ通過して、掲載すると連絡がありました。しかし、グリーンランドへ調査に出かけるなどで、引用データの掲載許可をとる作業が進まず、掲載が遅れてしまいました。

 そうこうしているうちに今年3月発行の「ネイチャー」で、外国の研究グループが、カナダ・ケベック州のヌブアギトゥク表成岩帯と呼ばれる場所で採集した岩石から「生物が生息していた痕跡を見つけた」という論文を発表しました。その年代が37億7000万年から42億8000万年前と発表されたので、地球最古の記録が塗り替えられるかと騒がれました。しかしこの論文は、2つの異なる年代測定法によって、37億7000万年前か、42億8000万年前かのどちらかの生命の痕跡だと考えられる、という結論を出しているにすぎません。一般に受け入れられているのは、私たちと同じ測定法から得られた前者なので最古とは言えません。

ホッキョクグマも出没するカナダ東部のラブラドル半島 写真提供:東京大学小宮剛准教授

 私たちが発見したのはあくまで生命由来の物質であり、化石のように形がはっきりしたものではありません。ただしバクテリアか古細菌であることは推定できます。地球ができたのが約46億年前、海ができたのは約44億年前。約40億年前に生物がバクテリアぐらいまで既に進化していたことには驚きです。

 これからより詳細な研究を進め、生物種を明らかにしていくつもりです。そして私たちの発見が時間をかけて定説となり、中学高校の教科書に載ることを夢みています。

(東京大学 大学院総合文化研究科広域科学専攻 広域システム科学系 准教授)