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門井慶喜「天才の息子とともにあった父」――第158回直木賞候補者インタビュー

source : オール讀物 2018年1月号

genre : エンタメ, 読書

オール読物2018年1月号より転載

門井慶喜さん

『雨ニモマケズ』や童話の『風の又三郎』、詩集『春と修羅』など、後世に語り継がれる作品を多く残した宮沢賢治。今作で描かれるのは、その37年の短い生涯の間、賢治に向き合い続けた父・政次郎だ。

 自身も3人の息子を持つ門井さんは、政次郎を主人公とした理由をこう語る。

「子供たちのために買った賢治の伝記漫画に、7歳の頃赤痢にかかった賢治を、政次郎が2週間病院に泊まり込んで看病したという話がありました。明治的、家父長的イメージとは正反対のエピソードです。一般に、政次郎は賢治が詩や童話を書くことに反対する抑圧者として捉えられることが多いのですが、子供を愛しく思う気持ちは現代の親と変わりません。そこに心を動かされました。それにこれまで、政次郎を書いた本というのは、小説にも研究書にも一冊もない。私には重要なモチベーションです」

 岩手県花巻で質屋を営む宮沢家の当主である政次郎は、真面目な性格で家業を振興させていた。また、町会議員をつとめ、僧侶や知識人を招いて合宿をひらくなど、土地の名士でもあった。成績優秀だった長男の賢治は、父の期待を背負い盛岡中学校へ進学する。しかし、中学校では成績がふるわず、質屋を継ぐことも拒否した。ようやく高等農林学校に入るも、飴を作る工場を作りたい、人造宝石の事業を起こしたいなど金の無心を続ける。しまいには浄土真宗を信仰する父に反抗するかのように、日蓮系の国柱会の活動に傾倒する。

『銀河鉄道の父』(門井慶喜 著)/講談社

「始めは、私は政次郎の立場に近いと考えていたのですが、だんだん自分こそ賢治だったのではないかと感じるようになりました。私も料理屋を経営していた父の後を継がずに、6年間会社勤めをしながら実家で作家を目指していました。父はもう亡くなりましたが、どんな気持ちだったのでしょう」

 八方ふさがりの賢治は東京に家出し、ある出来事がきっかけで創作に目覚める。しかし、幼少期から賢治の良き理解者であった妹のトシが結核に倒れてしまう。家族の看病もむなしくトシは亡くなり、やがて同じ病が賢治をも襲う。家族や自身の病気を目前にくっきりと描かれるのは、表現者としての賢治の業だ。

「トシが亡くなったときの賢治の行動は、物書きとはどうしようもない生き物だと、我ながら呆れつつ描いていました。ただ、今作では政次郎と賢治が登場人物ではありますが、母親や娘にも通じる、普遍的な親子の物語を目指しました。皆さんの心に届く作品になっていればと思います」

かどいよしのぶ/1971年群馬生まれ。2003年「キッドナッパーズ」でオール讀物推理小説新人賞受賞。16年『マジカル・ヒストリー・ツアー』で推協賞評論部門受賞。

銀河鉄道の父

門井 慶喜(著)

講談社
2017年9月13日 発売

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オール讀物 2018年 01 月号 [雑誌]

文藝春秋
2017年12月22日 発売

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