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澤田瞳子「疫病の蔓延する都で人間は」――第158回直木賞候補者インタビュー

source : オール讀物 2018年1月号

genre : エンタメ, 読書

オール読物2018年1月号より転載

澤田瞳子さん

「天平9年(737)の天然痘の大流行といえば、当時の政治の中枢にいた藤原四兄弟をはじめ、貴族の3分の1を死に至らしめた大変な疫病でした。まして奈良の都に暮らしていた一般の庶民たちは、半分ほどが命を失ったと考えられています。この厄災についての論文は思いのほか少なく、ほとんど研究もされていないんですが、以前から小説として書けることがあるのではないかと考えていました」

 デビュー作『孤鷹の天』をはじめ、奈良時代を舞台にした一連の作品を発表してきた澤田瞳子さんの最新作『火定』は、古代版のパンデミック小説。主人公のひとりは、京内の病人の収容・治療を行う施薬院で働く若き官人の蜂田名代。もうひとりの主人公は、かつては侍医として主上にも信頼されながら、無実の罪で牢に入れられた猪名部諸男だ。

「思いがけない大災害が起こった時に人間はどう動くのか――今回は歴史的事実の中での個の動きを書きたいと思ったんです。でもそうすると、彼らも他の登場人物たちも好き勝手に動いて、力を合わせて病に立ち向かう方向へなかなかいかない。誰だって自分の命が惜しいし、そこから逃げ出そうとするのは当たり前。結局、こうした状況になると子供たちや外国人といった、弱い立場のものが真っ先に犠牲になってしまうんですね」

『火定』(澤田瞳子 著)/PHP研究所

 天然痘の感染経路が実際にどのようなものであったかは不明だが、作中に書かれたように国外からもたらされたのは確かである。海の彼方から運ばれてきたものへの人々の恐怖は、諸男とその獄中の仲間たちが加担した詐欺まがいの行為によって、エスカレートしていく。一方、施薬院では医師の綱手を筆頭に、阿鼻叫喚の事態への対応を試みるのだが……。

「この時代、特効薬が発見されたわけではないですし、現代の医療ドラマのように、すべてが無事解決とはならないのが難しいところでした。孤児たちを救済する悲田院を襲った悲劇の結末も、違う方が書けばまた異なるものになるのでしょう。でも、物語の前後に起こった出来事が他にも沢山あり、混乱と絶望を超えて、なお生き続ける人間の姿に目を向けていただければと思います」

 前作『腐れ梅』では個人の視点から日本の中世への転換を描き、本作では歴史の事実から個人を描き出した。さらに次作『落花』では、平将門が活躍した平安時代の東国が舞台となる。

「また奈良時代のこと、たとえば仏教と同時に日本へ入ってきた道教の話もいつか書きたいと思っています」

さわだとうこ/1977年京都府生まれ。2010年『孤鷹の天』でデビュー、中山義秀文学賞。『満つる月の如し』で新田次郎文学賞及び、本屋が選ぶ時代小説大賞。『若冲』で親鸞賞。

火定

澤田 瞳子(著)

PHP研究所
2017年11月21日 発売

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オール讀物 2018年 01 月号 [雑誌]

文藝春秋
2017年12月22日 発売

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