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連載中野京子の名画が語る西洋史

中野 京子
2017/12/27

中野京子の名画が語る西洋史――血まみれメアリ

「メアリ一世」1554年、油彩、30×40cm プラド美術館 ©ユニフォトプレス

「九日間の女王」ジェーン・グレイを反逆罪の廉で斬首したのが、このメアリ一世だ。異名は「ブラッディ・メアリ(血まみれメアリ)」。五年の在位中、プロテスタントを三百人も火炙りにして、憎悪の的となった(それを今、血の色のカクテル名にして飲んでいるイギリス人の感覚、恐るべし)。

 とはいえメアリも宿命にからめとられた女性ではあった。悪名高いヘンリー八世の最初の子として生まれながら、母である妃が離縁されたため辛酸を舐める。二番目の妃アン・ブーリン一派からの毒殺を恐れて食べるものも食べられず、栄養不良が続いたのが、痩せて病身の理由と言われた。

 三十七歳でいよいよ玉座に手が届くという直前には、権力欲にかられた重臣がジェーン・グレイを担ぎ、一足早く女王宣言させてしまう。メアリが兵を挙げ、裏切り者らを一掃したのは当然だ。でなければ斬首されたのはメアリのほうであったろう。喰うか、喰われるかの時代なのだ。

 プロテスタントの弾圧も、良し悪しは別として、イングランドを再びカトリック国にまとめようとするメアリの、そして亡き母の、いわば悲願だった。

 戴冠まもなくの本肖像画は、母親筋であるスペイン・ハプスブルク家のフェリペ皇太子(後のフェリペ二世)との、いわばお見合い写真代わりとして制作し、先方へ贈ったもの。

 メアリは歯槽膿漏で歯は何本も欠け、近眼で眼差しはきつく、髪の毛も薄く、実年齢よりずっと老けて見えたという。画家がいかに粉飾しようと、それはこの絵からもはっきり伝わってくる。苦労多く、悩み多く、恨み多い半生から猜疑心の塊になった、不幸な初老の女性の姿がここにある。

 フェリペとの結婚で、彼女が何より願ったのは世継ぎの誕生だった。まだ産めると信じ、産むことのみを願った。王子が欲しい、欲しい、欲しいの一念は想像妊娠に終わる。しかもその腹の脹れは、死へと続く癌の腫瘍であった。

■テューダー・ローズ
イングランドの覇権を争うランカスター家VSヨーク家の30年にわたる熾烈な戦いには、「薔薇戦争」というロマンティックな名がついた。それは両家の紋章が、前者の赤薔薇、後者の白薔薇に由来している。戦を制したのは赤薔薇側のヘンリー7世だが、敗者の王女を妃に迎え、新たにテューダー家を名乗って、紋章も赤白混じりの薔薇にした。とはいえ次第に赤の部分が大きくなり、これは芯と輪郭にうっすら白色を差すのみ。

アントニス・モル Anthonis Mor
1520~1578
ネーデルラント生まれの画家。イギリスへ渡り、メアリとエリザベスの肖像を描く。

中野京子 Kyoko Nakano
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