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買い取り単価は1キロ130円――山谷のドヤ街で空き缶拾いに同行させてもらった

――50年後のずばり東京 #2

2017/12/24
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 遺族から遺骨の引き取りを拒否されることも多く、その場合は都内の霊園に保管してもらう。保管期間は1~5年。それを超えると無縁墓に合葬される。

 もっとも、病院に搬送される前に路上で亡くなる人もいる。玉姫公園で生活する岡田さんは思い出したように語った。

「数年前、俺より年上の男性が小屋の中で死にました。携帯で119番に掛け、救急隊から警察に通報してもらいました。倒れたからと言ったって俺らじゃ何にもしてやれん。せいぜい救急車を呼ぶぐらいです」

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 男性の死因はくも膜下出血。連絡を受けた東北の身内が「遺体は引き取らない」と言ったため、無縁墓地に埋葬されたという。

「ここはのたれ死にが多いよ。特に冬場はね。また死んじゃったのかと。感じることはそのぐらいだね」

山谷を歩く人々は高齢者ばかり。子供の姿はほとんど見られない ©水谷竹秀

堂々と「山谷」を名乗れる街にしたい

 外国人や若い女性観光客、就活生などが集う新しい側面がある一方、日雇い労働者の街と言われた昔の名残が混在するのが今の山谷だ。前述したカンガルーホテルの小菅さんのように「福祉宿」から一般観光客向けに転換した経営者は少数派である。山谷の宿泊施設の大半が生活保護受給者を対象にしていることから、近年は「福祉の街」とも言われる。経営者からしても、シーズンや景気によって経営状態が左右されるより、生活保護という「財源」は安定する。特に山谷地域は宿泊施設を複数保有しているオーナーが多く、他に居場所がない生活保護受給者との共依存の関係が生まれているため、一般の観光客向けへの転換には消極的なのだ。

 福祉宿を多数保有するオーナーは私の取材にこう語った。

「一般の観光客も受け入れればと簡単に言うけど、(生活保護受給者のような)長期滞在者がいればずっと住んでいるので毎日部屋の掃除をしなくて済む。ところが短期滞在者の場合、毎日掃除をしないといけないため、その分の人員が必要になる。また、今や予約サイトも導入しないと経営が成り立たず、そういう知識がある人も探さないといけない」

 一般の観光客受け入れに向けた施設整備よりも、現状維持の方がビジネス的には合理的ということだ。

 日本政府は東京オリンピックが開催される2020年に訪日外国人を年間4000万人、消費額を8兆円に引き上げる目標を掲げている。「観光立国」を目指す日本の五輪後の集客対策として、都内にはホテルの建設ラッシュが進み、民泊もどんどん増えているため、一般観光客を受け入れるのならこの過当競争に参入しなければならない。

一般観光客向けに転換したカンガルーホテルは少数派 ©水谷竹秀

 一般の観光客を対象に長年営業を続けてきたが、ここにきて福祉宿への転換を決めた経営者もいる。

「浅草近辺のホテルや民泊の増加で山谷を訪れる観光客は昨年夏頃から減り、売り上げが大幅に落ちました。だから福祉宿に戻すために現在、宿泊施設を改装中です。山谷は福祉宿に特化した方が生き残れるのではないか。それが私の結論です」

 各宿泊施設の方針をめぐって足並みがそろっていない現状が、問題をさらに複雑化させている。特に最近は後継者がいないなどの理由から廃業する経営者も現れ、その数は年間1~2軒に上る時もあるという。

 城北旅館組合、広報担当の帰山さんは山谷の行く末についてこんな思いを語った。

「父の世代は暴動の影響から、出身を尋ねられると『浅草』とごまかすほど負のイメージが定着していた。ところが外国人や若い女性が泊まるようになって少しずつ変わった。深夜営業の飲食店が少ないなど課題はあるが、この街には泪橋のような歴史的な観光資源はたくさん残されているので、それをもっと発信し、堂々と『山谷』を名乗れる街にしたい」

 東京オリンピックが開催された1964年当時、日雇い労働者で溢れた山谷地域のドヤ街は、50年が経過した今、かつてないほどの過渡期を迎えている。

買い取り単価は1キロ130円――山谷のドヤ街で空き缶拾いに同行させてもらった

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