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「打ってよし、守ってよし、しゃべってよし」 村田修一を再評価する

文春野球コラム ウィンターリーグ2017

2017/12/21
note

まだNPBを去るような選手ではない

 さらに言えば、村田は「原稿になる」選手だ。

 取材相手として、村田は決してとっつきやすいタイプではない。ただ、頭の回転が良く、こちらが欲しい材料を的確に提供してくれる。野球記者が選手に求めるのは主に「実はこんなことがありました」というエピソードである。打った、投げたという試合レポートは誰が書いてもさほど違いがでない(とされている)ため、自分だけが知っているエピソードを記事に盛り込むことで他紙との差別化を図っているわけだ。

 誰々さんに焼肉に連れて行ってもらった、コーチに言われてフォームを微調整した、球場に来る道を変えた、などとにかく「お話」がほしい。でも「最近なんかありました?」と聞くわけにもいかないので事前取材では「先頭バッターを塁に出さないようにしたい」「●●投手は甘い球は来ないので好球必打でいきたい」というようなありきたりな話を我慢して聞き流し、なんとかエピソードを引き出そうと延々と食い下がるのだ。こちらの狙いがわかっている選手はほとんどいないため、散々話を聞いたのに全然記事に反映されない、ということもザラ。ただ、村田はそうではなく、バットをアオダモからメープルに変えた、バットのグリップの位置を10センチ上げた、など記事に深みを与えてくれるエピソードを巧みに披露してくれるのだ。

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 こんなこともあった。ある時、野球雑誌に村田のインタビューが載っていた。

「これは今まで誰にも言ってなくて、○○さん(インタビュアー)にだけ言うんですけど、年下のおかわり君に本塁打の数で負けるわけにはいかないと思っていた」
※この年、村田とおかわり君こと中村剛也は同じ46本塁打で本塁打王を獲得している。

 パ・リーグのおかわり君をライバル視していたことはまだ話していないエピソードであり、あなたにだけ言う、ということで取材者は喜ぶ。これを読んだ僕は「村田はやっぱりわかってるんだな」と苦笑いせざるをえなかった。鈴木健(ヤクルト)の引退試合でファウルフライをわざと取らなかったシーンに象徴されるように、人の機微を読むことに長けた「粋な男」なのだ。

 打ってよし、守ってよし、しゃべってよし。普通に考えれば村田はまだまだNPBを去らなければいけないような選手ではない。なぜ各球団が獲得に二の足を踏んでいるのかはわからないが、おそらくネックになっているものの一つは彼の外面的なキャラクターだろう。
 
 確かに村田は酒は飲むしタバコは吸う。常に全力プレーというタイプでもなく、練習時間も短い。風貌も荒々しく、例えば日本代表の稲葉篤紀監督のように、少年野球の選手に目標にしてもらいたい、というさわやかな選手ではない。親分肌で面倒見のいい男ではあるが、若手の手本になってほしい、と言われるタイプでもない。

 だが、彼ほどの選手を本当にこのまま辞めさせていいのだろうか。プロ野球は全員が完全燃焼できる世界ではない。でも、だからといってこのタイミングは村田ほどの選手にとってあまりにも早すぎるだろう。野球に限らず、プロスポーツとは天才たちの異能を楽しむものだと思う。もちろん、ストイックでひたむきなアスリートも美しい。でも、努力型ばかりになったらつまらない。

 それにもし村田にチャンスを与える球団が現れたら……。野球人生で初めてといっていい大きな挫折を味わった村田が、新しい村田を、一皮むけたプレーを見せてくれる予感もするのだ。

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