中3の時に好きになった子がファンだからという理由だけで久保田利伸を聴くようになり、久保田利伸の話をたくさんできるように、彼のラジオ番組を聴き始めると、おススメする曲が意外にもジャズばかりで、自分の曲を一切流さないのもおかしいなと思いつつもジャズってかっこいいな、大人だななんて言いながら聴いていた。それが久保田利伸に声がそっくりなジャズピアニストの番組だとわかるまでひと月ほどかかったが、ジャズは女の子に振られたセンチメンタルな気分を癒してくれた。
DJやったらもしかしたらモテるんじゃないか
高校に入ると、背伸びをしてオシャレなサブカル雑誌を読むようになり、そこに載っていた神戸の老舗ジャズ喫茶に行くようになり、大して違いもわからないのに、音が良い、などとうそぶいて、バイト代をアナログレコードにつぎ込むようになった。大学に入るころには100枚ほどになっていた。
大学1年の夏休み、友人の松本くんが家に遊びにきた。松本くんは、音楽に詳しくて、オシャレでルックスもよく、モデルのような彼女がいてクラブでDJもしているカッコいい奴だった。彼はうちにあるレコードを見てこう言った。
「一緒にDJせえへん?」
いくらレコードを持っているとは言え、DJなんてそうそう簡単にできるわけがないし、松本くんはDJをやるとモテると言うが、それは松本くんがやるからモテるんであって、予備校でも連敗記録をまた一つ伸ばしたモテないくんが、DJをやったからといってモテるわけがないけれど、もしかしたらモテるんじゃないかという淡い期待もちらほらと顔を出したので、「自分の持っているレコードを人前でかけるのには興味がある」とまことしやかな理由とともに彼の誘いに乗った。
アパレルショップに勤める19歳のカオルちゃん
初めてのDJの持ち時間はほんの1時間ほどだった。ソウルやファンクでフロアを盛り上げた松本くんと交代し、ブースに立ち、お気に入りの一曲、マイルス・デイビスの『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』をかけると、熱くなったフロアは一気にジャズ喫茶のような静けさに包まれた。はじめきょとんとしていた客は徐々にバースペースに移動し、各々会話を楽しみ、音楽に耳を傾ける人はいなくなった。結局、15分ほどで半強制的に別のDJと交代させられた。松本くんから、もっと盛り上がる曲も買わないとダメだと指摘され、それからさらにレコードにかける金額が増えたが、DJをする時間も増えた。
結果的にDJをやった事でモテたかと言うと、やらないよりはモテた、と言うより、出会いは増えたし、不相応なくらい可愛い子たちとも仲良くはなれた。そのうちの一人、フランス系のアパレルショップに勤める19歳のカオルちゃんは、ハーフじゃないけど、ハーフのような、まるでフランス・ギャルのような美人だった。彼女は、ジャズや映画が好きと言うので、調子にのって浅い知識を披露すると、熱心に聞いてくれるので、すっかり好きになってしまった。