文春オンライン

「いいよいいよ、逃げてもいいよ」と伝えてくれた、今年のテレビドラマ3本の傑作

それは、石田ゆり子の一言からはじまった

2017/12/29
note

「お父ちゃんがここにいたいなら……いいよ」『ひよっこ』(NHK)

『ひよっこ』みね子役を演じた有村架純  ©鈴木七絵/文藝春秋

 4月から9月にかけて放送されたNHK連続テレビ小説。実在の偉人の生涯をベースとするのが主流である朝ドラだが、主演の有村架純が演じたのは大衆に埋もれる何者でもない女の子だ。

 名も無き彼女たちが、時代の流れに揉まれながら懸命にがんばり続ける、その小さな物語に勇気づけられた視聴者は少なくないだろう。脚本家である岡田惠和の近年の筆致は一貫している。これといった悪人を登場させず、画面には揃いも揃って“いい人”ばかり。

 しかし、彼らは単なるいい人ではない。その人物像は一面的ではなく、複雑だ。誰もが、明るい個性の奥底に“哀しみ”を抱えている。戦争の傷を内に秘める宗男(峯田和伸)、実家の口減らしにあった澄子(松本穂香)、能力を発揮することを社会に阻害される豊子(藤野涼子)……主人公のみね子(有村架純)はその健気さの裏に、「父の失踪によって家計を支えねばならない」という十字架を背負っている。

ADVERTISEMENT

 第17週「運命のひと」では、ついに再会した父に対して、こう言い放つ。

《嫌になったんでしょう? 私たちのこと
それとも、何もかんも?
ひどい目にあわされて、嫌になったんでしょう?
だからいなくなったんでしょう!? そうでしょ!?
それは私、分かっから! 私、分かっから!
お父ちゃんがここにいたいなら……いいよ》

 この「いいよ」もまた、『カルテット』でのそれと同じく、社会の倫理を超えた、物語独自のルールが発動した肯定であるからこそ、観る者の胸を打つ。テレビドラマは、物語は、私たちを許し続けるのだ。