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角幡 唯介
2018/01/04

角幡唯介さんが20歳の自分に読ませたい「わたしのベスト3」

角幡唯介/探検家・作家 ©文藝春秋

 二十歳の頃はあまり本を読んでいなかったので三冊とはいわず百冊ぐらい薦めたい。一番のお薦めは西川一三『秘境西域八年の潜行』。戦時中、帝国陸軍の密命を帯びた著者が、スパイ活動のために地元僧に変装してモンゴルからチベットを経てインドまで旅した壮絶な記録である。日本人の手による冒険記、旅行記としては最強の一冊だ。上中下合わせて千九百頁の大著だが、それでもかなり端折ったのではないかと思われるほど濃密なエピソードが満載で、まあ半端な作品ではない。当時の私は探検だ冒険だと口ばかりで調子に乗っていたので、こういう本を読めば頬を百発殴られたみたいに目が覚めるのではないだろうか。

 二冊目はベルナール・ディーアス『メキシコ征服記』。エルナン・コルテスの隊員の手によるアステカ帝国征服記だ。コルテス軍によりアステカは滅亡したわけで、インディオにとって彼らは悪魔に等しい存在だった。だが、それはともかく、この出来事が人類史上、空前絶後の異質な文明同士の衝突だったのは間違いなく、完全に未知の国に乗りこむ人間の昂揚がどのようなものであったのかは知りたい。……知りたいと書いたのは、じつはこの本、まだ読んでいないのだ。読みたいのだが、あまりに重厚すぎて、とてもではないが今となっては読む時間がない。家や大学のクラブの部室で暇を持て余していた二十歳の私に、お前、これ今のうちに読んでおいたほうがいいぞと、ぜひ薦めたい本である。

 今年の本では町田康『ホサナ』が圧倒的な読後感があった。これまで読んだ小説の中でも一、二を争う作品。愛犬家が集まるBBQで突然光の柱が人々を焼き尽くしたり、ひょっとこの集団が現れたり、毒虫の群れに襲われたりと訳のわからない筋立てが続くが、それでもここには何か真実が書かれていると思わしめる著者の力量には脱帽だ。まさしく現代の神話。ただ二十歳の私にはまだ読みこなせないかもしれず、それがちょっと心配だ。

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『秘境西域八年の潜行』西川一三/中公文庫

秘境西域八年の潜行〈上〉 (中公文庫)

西川 一三(著)

中央公論社
1990年10月 発売

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『メキシコ征服記』ベルナール・ディアス/岩波書店

メキシコ征服記 1 (大航海時代叢書エクストラ・シリーズ 3)

ベルナール・ディーアス・デル・カスティー(著),‎ 小林 一宏(翻訳)

岩波書店
1986年2月 発売

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『ホサナ』町田 康/講談社

ホサナ

町田 康(著)

講談社
2017年5月26日 発売

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