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梯 久美子さんが20歳の自分に読ませたい「わたしのベスト3」

2018/01/05
梯 久美子/ノンフィクション作家 ©文藝春秋

『石垣りん詩集』。教科書に載っていた「私の前にある鍋とお釜と燃える火と」でしか知らなかった詩人の石垣りん。優等生的な詩を書く人と思い込んで敬遠していたが、家族の暗さや女であることの重たさ、会社づとめの中ですり減り失われてゆくものを情け容赦なくうたっていることを、四十代になってから知った。

 昭和九年に十四歳で事務見習いとして日本興業銀行に就職し、独身のまま定年まで働いた人である。その間に戦争があり、高度成長があった。サイパン玉砕のとき、崖から身を投げた女性たちを「とばなければならないからとびこんだ/ゆき場のないゆき場所」「それがねえ/まだ一人も海にとどかないのだ。/十五年もたつというのに/どうしたんだろう。/あの、/女。」とうたった「崖」など、その詩句は、歴史を女の側にぐっと引き寄せる力を持つ。

『「赤毛のアン」の秘密』。日本の少女たちに絶大な人気を誇る『赤毛のアン』シリーズの作者モンゴメリは、六十七歳で自殺した。彼女の人生を追いつつ、日本での『赤毛のアン』の特異な受容のされ方を分析し論じていく。

 なぜ日本の少女たちはアンが好きなのか。そして、彼女たちに待っているのはどのような形の挫折なのか。何者かになりたい欲求と、良き妻・母であることを両立しようと努力し、力尽きたモンゴメリは、ロマンチストで勤勉な日本の少女を映し出す鏡のような存在である。思春期の終りにこの本を読んでいたら、その後の人生がずいぶん生きやすくなったのではないかと思う。

『完本 春の城』。石牟礼道子と森崎和江は、私がものを書くようになってから大きな影響を受けた作家である。だが若い頃はなかなか手を出せなかった。いろいろな意味で怖かったのだろう。その怖さこそ魅力だと今はわかる。今年出たこの本は、半世紀をかけて書かれた大河小説の完全版。天草・島原の乱を庶民の目線から描き、歴史の陰に埋もれた名もなき人々の声を甦らせている。

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『石垣りん詩集』伊藤比呂美編/岩波文庫

石垣りん詩集 (岩波文庫)

(著)

岩波書店
2015年11月18日 発売

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『「赤毛のアン」の秘密』小倉千加子/岩波現代文庫

「赤毛のアン」の秘密 (岩波現代文庫)

小倉 千加子(著)

岩波書店
2014年5月17日 発売

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『完本 春の城』石牟礼道子/藤原書店

完本 春の城

石牟礼 道子(著)

藤原書店
2017年7月22日 発売

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