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特集
俳句、よんでる? 遊ぼう 5・7・5

「俳句の力は目測力」 中曽根康弘×金子兜太 俳句レジェンド対談【前編】

句歴80年超のふたりが語る「政治と俳句と戦争と」

source : 文藝春秋 2009年5月号

genre : エンタメ, 読書, アート, 政治, 歴史

2018年に100歳を迎える中曽根康弘元首相、99歳を迎える俳人・金子兜太さんが2009年に『文藝春秋』で行った「俳句対談」。実は中曽根さんは句集を出しているほどの“俳句好き”。レジェンド同士の初対談です。

それぞれの一句を披露するふたり。対談は、東京平河町にあった砂防会館内・中曽根事務所で行われた(中曽根さん=右、金子さん=左)

お久しぶりです。20年ぶりですね

金子 中曽根さん、ご無沙汰しております。お元気そうですね。

中曽根 実は先ほどまでテレビでWBCの決勝を観てましてね、韓国との競り合いで興奮して頭が真っ赤になっちゃって(笑)。金子さんと俳句のことを話すには半日ぐらい頭を冷やさないとダメだと思いまして、深呼吸をうんとしたんですよ。

金子 いや本当に、世界一になってめでたいことでした。中曽根さんにお目にかかるのは実に20年ぶりなんです。と言っても私はSPと大勢の女性に囲まれているところに一目会っただけですから憶えていらっしゃらないだろうけど。

中曽根 さて、どの時だろう。

金子 俳人の久保田月鈴子(げつれいし)が主宰していた俳誌「富士ばら」のパーティです。

中曽根 ああ、久保田君か。彼は旧制静岡高校での1年上の先輩で、私が俳句を作るきっかけになった男です。私は日本独特の短詩である俳句にもともと興味を持っておったもんだから、自然と親しくなりました。

中曽根康弘さん(1918年生まれ)

心の簾(すだれ)のなかを風が通るような感じ

金子 私は大正8(1919)年生まれで今年の9月で90になりますが、中曽根さんは私の1つ上。去年は卒寿を記念して『中曽根康弘句集2008』を出されたほどの俳人でもいらっしゃる。旧制高校時代から俳句はされていたんですか。

中曽根 何句か作りましたが、やはり高等学校時代は運動したり、遊んだりが忙しくて俳句には入り込みませんでした。ただ久保田君が俳句を詠んだのを目にして何か、心の簾(すだれ)のなかを風が通るような感じがしていました。俳句自体に敬意がありましたね。

金子 私は父が金子伊昔紅(いせきこう)という俳人でもあったのですが、俳句を始めるのは旧制水戸高校時代。水戸高校俳句会へ入って「白梅や老子無心の旅に住む」なんて作りました。

牛久沼でひねった中曽根康弘、はじめての一句

中曽根 私が本格的に俳句を始めたのは東大卒業の年だったか、高等文官試験(国家公務員試験)に受かってのんびりした頃。久保田君ともう1人の友人と3人で水郷の牛久沼へ遊びに行って、俳句でも詠もうということになった。帰りに上野駅の食堂で披露しあったら幸いに私の句が1番いいと言われたんです。「秋鮒の影追ひ追ひて船つきぬ」という1句。

金子 鮒を追っかけているうちに船が着いたと。この「追ひ追ひて」がいいなあ。

中曽根 月鈴子に煽(おだて)られて俳句に入っていったというわけですよ(笑)。特に結社などには入らず、芭蕉を読んだり、あの頃新しかった水原秋桜子や山口誓子、種田山頭火を読んでは月鈴子と議論をしていました。

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