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連載ことばのおもちゃ缶

山田 航
2015/07/12

シンプルで奥が深い「しりとり」の世界(1)
ルールの追加でまったくちがう面白さ

genre : エンタメ, 読書

 私のやっていた言葉遊びはなかなか他人に理解してもらえず、遊び相手がいなかったため、基本的に一人用のものとして設計したものばかりだ。しかし中には相手がいないと遊べないタイプの遊びも、一応はちゃんとある。それが「しりとり」だ。「しりとり」。ルールをわざわざ説明するまでもない超メジャーな遊びだ。高校生のときにクラスメイトの建部くんとよくやっていた。彼とは高校生クイズに一緒に出場して予選落ちしたりもした仲である。いつだったか、久々に会ったときの別れ際に「今度久しぶりにまたしりとりしよう!」と言われたような記憶がある。そんなに気に入っていたのか、しりとり。

 しりとりの必勝法もずいぶん考えた。よく言われる戦術は「る」攻めである。「る」から始まる日本語は少ないので、ひたすら最後が「る」で終わる言葉で攻撃してゆけば、いつかは相手が音を上げるはずだという戦法だ。もし相手がこの戦法を用いてきたら、果たしてどうする。「る」で始まる言葉をあらかじめたくさん収集しておくか。しかしどうせならそのまま反撃に転じたい。ということで出て来るのが、いざという時の奥の手。「ルール」だ。「る」で始まって「る」で終わる言葉だ。これで反転攻勢に出ることができる。さあ、次はどう来るか。

「ルイス・キャロル」

 まさか、再び「る」で返されるとは……! 「る」で始まって「る」で終わる言葉、実は思ったより結構あるのではないか?

「ルノワール」

 フランスの印象派の画家だ。どうだ。

「ルノアール」

 おい、それは反則じゃないか。今こっちが使ったばかりだろう。え、違う? 画家のルノワールじゃなくて、東京を中心に展開している喫茶室のルノアール? やかましいわ。そんなやりとりを繰り返しているうちに、「る」で始まって「る」で終わる言葉がいったいどれくらいあるのかという単語収集の方に興味が向かってゆく。その脱線もしりとりの醍醐味である。さて、ここでちょっと探してみよう、「る」で始まって「る」で終わる言葉。覚えておけばしりとりに強くなれるかもしれない。

ルーブル(ロシアの通貨。)

ルナール(フランスの作家。代表作は『にんじん』。)

ルシフェル(キリスト教の堕天使。ルシファーともいう。)

ル・クプル(夫婦の歌手。代表曲は『ひだまりの詩』。のちに離婚。)

ルイ・マル(フランスの映画監督。代表作は『死刑台のエレベーター』。)

ルミノール(血液に反応して光ることで有名な、ミステリでおなじみの試薬。)

ルネ・クレール(フランスの映画監督。彼の名前に因んだ喫茶店が日本のどこかにきっとあると思う。)

ルイ・アルチュセール(フランスの哲学者。晩年に奥さんを殺すも、責任能力を問えず無罪になる。)

 予想通りのフランス人率の高さ。しかしこれだけ例が出て来ると、「る」で攻めるという戦法は果たして本当に有効なのか疑いたくなる。第1回でも登場した三省堂新明解国語辞典(初版)では、「る」で始まる項は121語。「ん」で終わる24語を引けば96回は応戦できるわけだ(そしてもちろん新明解国語辞典に載っていない「る」のつく言葉もたくさんある)。

 ちなみに無料でコンピュータとしりとりができるサイト「しりとり」では、各音から始まる言葉と、各音が語尾になる言葉とを、それぞれまとめてくれている。とても便利だ(作った人はなんて暇人なんだとも思うが)。それで調べてみると、頭に来ることが最も少ない文字は「ぢ」の1件。次いで「づ」で60件。ちなみに「る」は356件である。

 そして語尾に「ぢ」が来る言葉は7件。「鼻血」はまだいいとして、「あさぢ」「かつぢ」など聞き慣れない言葉が並ぶ。俳優の勝地涼の苗字は「かつぢ」と表記するのが正しいらしい。そして語尾に「づ」が来る言葉は347件。こっちはかなりある。「会津」「魚津」「近江今津」など、ほとんどが地名だが。「味の素ゼネラルフーヅ」はなんだか笑ってしまった。「ズ」ではなくて断じて「ヅ」なのです。

 つまり本気でしりとりに勝ちたければ、「る」攻めよりもむしろ「ぢ」攻め、「づ」攻めの方が効果的ということである。日本の地図帳をとことん読み込んで、津々浦々の「づ」を集めておこう。

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