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特集
俳句、よんでる? 遊ぼう 5・7・5

source : 文藝春秋 2009年5月号

genre : エンタメ, 読書, アート, 政治, 歴史

生涯600句! 平民宰相・原敬のモダンな俳句

金子 平民宰相と呼ばれていただけあって、題材から書き方まで、本当に庶民的。「車遅々牛の涎れの小春かな」「炉によらず肴も喰はず猫の恋」「春風や少女気を置く裾さばき」など柔らかい句が特徴的ですが、生涯で600句ほど作っている。

中曽根 議会で反対をぶつ反対党の態度を詠んだものまでありますね。「痩せ馬を罵る馬子や夏の原」。原敬の句には近代性があると思います。

原敬「炉によらず肴も喰はず猫の恋」

金子 ええ、つくりごとや花鳥諷詠じゃない日常性を詠んでいるから、それだけモダンな印象なんですね。原敬は句帖をつけていたようですが、中曽根さんもそういう手帖、お持ちだと伺いましたよ。

中曽根 一時期持っていましたけど、すぐ飽きちゃってダメなんだ(笑)。いつも正月半ばでやめちまう三日坊主なんです。そのかわりメモの裏側に書き付けたり、思いついたときに書き留めておく。これがいちばんいい。

「控へ目に生くる幸せ根深汁」藤波の人生観だな

金子 中曽根派の政治家はけっこう俳句作っていますね。

中曽根 宇野宗佑とか藤波孝生。俳号はそれぞれ犂子(れいし)と孝堂ですね。

金子 集まって句会などはやらなかったですか。

中曽根 ない。みんな隠し芸として持っておったから、お互いに見せないで楽しんでいました。見せ合うとどうしても張り合っちゃう。お互い知らんぷりしておった。でも藤波孝生の句は雑誌でよく読みましたけどね(笑)。上手かった。

金子 藤波さんのは自然な感じがしますね。上手ですよ。

中曽根 「控へ目に生くる幸せ根深汁」。藤波の人生観だな。私が接してきた政治家藤波孝生がこの句に表れています。

金子 宇野さんのはちょっと作りこんだ感じがするな。「沙羅双樹あまたは蕾咲くは散る」「倶利伽羅や飛雪修羅なす谷隠(がく)り」。

宇野宗佑 「沙羅双樹あまたは蕾咲くは散る」

中曽根 彼は句集も何冊か出しているし、もっといい句がたくさんあったはずですよ。

兜太って名前は、中国じゃヘソから下の名前

中曽根 ところで、この兜太というお名前は俳号ではなくご本名ですか。

金子 はい、父親が付けてくれた名前です。母に聞きますと、きつい男になれという思いをこめたそうで。父親は田舎の医者でしたが、政治の好きな男で、長男に政治家になってほしいと思っていたらしい。それがいつの間にか俳句ばかり作っているんですから父は非常に不満に思っていたようですね(笑)。その上、兜太という名前は中国へ行ってパーティなんかで紹介されると楽しげな空気が流れるんです。

中曽根 どういうことですか。

金子 通訳に「なんで俺の名前が出るとみんな笑うんだ」と聞いたら、彼がちょっと言いにくそうな顔で兜太の「兜」は中国語の音で「褌」の意味があると。しかも金子の「金」に兜太の「太い」と来ちゃあヘソから下の名前ですわね(笑)。

中曽根 ハッハッハ、なるほど面白い話だ。

金子 「康弘」くらいの名前を付けてもらえれば、もう少しましになっていたかもしれない。王者のごとく(笑)。

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