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特集
俳句、よんでる? 遊ぼう 5・7・5

source : 文藝春秋 2009年5月号

genre : エンタメ, 読書, アート, 政治, 歴史

ミッテランは喜んだが、レーガンには分からなかったらしい

中曽根 中国とは俳句の交流が盛んなんですか。

金子 漢字を5・7・5に1字ずつ入れて作る「漢俳」というものがあってその学会には3000人近い参加者がいます。欧米の俳句愛好者に至っては200万人はくだらないという。この「文藝春秋」でも今年の1月号で「外国人句会」という企画をやって私が宗匠を務めたんですが、盛り上がりましたよ。ここ最近の俳句の国際化は目を見張るものがあります。

第1回「外国人句会」の様子 中央奥が金子さん ©文藝春秋

中曽根 フランスも俳句に理解が深い国柄ですね。昭和60年、首相としてフランスを公式訪問したときに凱旋門でミッテランと私とで竜騎兵の閲兵をしたんです。豪雨の中でしたが竜騎兵はたじろぎもせず軍列を乱さない。それに感動して、「三色旗ささげ雷雨にたじろがず」「大雷雨渦巻く中を竜騎兵」と作りました。その日の晩餐会でこんなのができた、とミッテランにフランス語に訳した俳句を持っていったら、彼は非常に喜んでくれましてね。みんなの前でそれを披露したんです。そしたらフランソワーズ・サガン女史がえらい褒めてくれたそうで。

金子 それはすごい。歴代の総理大臣でも俳句を外交の舞台で活用した人はいないんじゃないですか。仲の良かったレーガン大統領はどうでしたか。

中曽根 レーガンにはよくわからなかったみたいだね(笑)。フランス人には日本に近い感性があるけれど、アメリカはちょっと違うんでしょう。

金子 私もそう思います。短型詩への理解度の差が国によってあるんでしょうな。

サミット中に詠んだ句「言ふべしとボタン押す指汗ばめり」

中曽根 これも昭和60年のボンサミットでは「言ふべしとボタン押す指汗ばめり」というのも作りました。いろいろ各国が議論しているけれども、ここで日本のことを言わなくちゃいかん、と席のボタンを押して発言を求める。その指が熱意で汗ばんでいたんですね。

短冊に句をしたためる中曽根さん 

金子 自ずから汗という季語が使われてるのも面白い。しかし大舞台で自分の俳句をパッと作るなんて、なかなかそれだけの心臓はないですよ。本当はそういう人が欲しいんだがなあ、今の日本には。

中曽根 早いもので56年7ヶ月務めた議員を辞して5年が経ちました。あの時は「なにもかも人生劇場秋の暮」「五十年の怒り沈める秋夜かな」と情感をそのまま表に出した句もしたためましたが、「幾山河越え新緑の米寿かな」、そして去年「長旅も卒寿も新茶も夢の中」の境地に立ちました。金子さんも「冬霧の谷間見つづけ長寿とす」。今年卒寿を迎えられる。

金子 米寿の句、好きなんですよ、やはり堂々としてますなあ。よく俳句やってると長生きできるんですかなんて言われるんですけどね、どうですか。

短冊に一句したためる金子さん

中曽根 俳句は気晴らしになる。これが1番ですよ。

金子 そう、他のことをやりながらも俳句が自然と浮かんでくる。これが健康な証拠ですよ。今や俳句人口1200万人と言われていますが、こうして国民文藝の俳句を縁に一国の宰相経験者にお会いできるのはうれしいことですな。記念に短冊を交換しませんか。

中曽根 喜んで。では私は「暮れてなほ命の限り蝉しぐれ」。それからお好きだと言ってくださった米寿の句を書きましょう。

金子 私は最近の「失業し春の鴉の森に居る」ちょっと今様の時事ものですが。それと「よく眠る夢の枯野が青むまで」。芭蕉の「旅に病んで夢は枯野を駆けめぐる」の向こうを張ったものですが。

中曽根 ハハア、すごい句だ。ありがとうございます。握手しましょう。お互いどうぞ元気で。

金子 100まで生きてくださいよ。そしてまた俳句の話をやりましょう(笑)。

お互いの句を披露し合って大団円

写真=近藤俊哉/文藝春秋

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