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「175針」の手術痕 ヤクルトの“松坂世代”館山昌平は復活するか?

文春野球コラム ウィンターリーグ2017

長谷川 晶一 2017/12/24

身体に刻まれた「175針」の手術痕

 あるとき、館山がこんな言葉を漏らした。

「とうとう、手術痕も175針になってしまいました……」

 9度に及んだ様々な手術の果てに、館山の身体にはすでに175もの傷痕が刻み込まれている。2年前には151針だった。年を重ねるたびに傷痕はさらに増えていく。愛娘は父の裸を見て、「線路みたいだね」と笑ったという。館山は自虐気味につぶやいた。

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「……こうなったら、もう少し頑張って(手術痕で)名球会を目指そうかな」

 投手ならば200勝を達成すれば、超一流選手の証である名球会に入会することができる。しかし、館山のように200に迫る手術痕を持つスポーツ選手はプロレスラー以外では皆無だろう。「事故に遭ったようなものですよ」という笑えない冗談を聞きながら、改めて館山昌平という投手のこれまでの足跡を考える。

「200勝」という大目標のために、投手たちはひとつ、ひとつ、着実に勝利を積み重ねていく。しかし、「200針」という数字は、決して目指して到達する数字ではない。「自分のような投手は常に全力を出さなければ、プロの世界を生き抜いていけない」という覚悟ゆえの代償として生まれたものだ。

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 何度手術を経験しても、館山はマウンドに舞い戻ってくる。ケガとリハビリを何度も繰り返し、館山は不死鳥のごとく復活する。痛みと苦しみを、強さと知識に変えて館山は立ち上がる。9度目の手術を終えた今、まだ胸の内の闘志は燃え盛っている。彼の目はすでに来るべきシーズンに向かっている。

「自分の身体の中で起きている問題、復元できるものはすべてクリアにしたと思っています。これまでは、“悪いなりの状態で、何とか戦おう”と考えていました。でも、それは自分の甘えで、この状態では戦えませんでした。だから、今回は身体の中に起きている問題をすべてクリアにしました。その上で、もう一度試合を支配できるようなイメージが湧くように、ドクターやトレーナーにはいろいろなことをやってもらいました」

 その表情は明るい。そして、館山は力強く言う。

「あとは自分で積み上げてやるだけ。時間と回数と勝負して、やっていくだけです」

 身を削るようにして投じられる館山の投球を一球たりとも見逃してはいけない。「松坂世代」の一角として、まだまだ後進に道を譲るつもりはない。もう何度目になるのかわからない復活劇を期待して、18年シーズンの到来を待ちたい――。

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