あまりにも先の読めない天気に耐えられなくなった私は、自分の中で禁断とされていた手段に手を染めることにした。シオラパルクの山崎哲秀さんにインターネットの天気予報を聞こうというのだ。脱システムだ、全部自力で判断するんだ、と格好いいことばかり言っていた私だが、いざ追い詰められたときに発見したのは、情報通信テクノロジーで判断を求めようとするシステムに捉われた現代人としての己の憐れな姿であった。しかし、もうなりふり構ってはいられなかった。

 発信音がしばらく鳴り、山崎さんの声が聞こえた。

「角ちゃん、今どこにいるの?」

「そうですね、氷床を登り始めて10キロちょい来たかな。氷河まで3分の1ぐらいのところだと思います。食料は23日までもつんでまだ大丈夫ですが、天気がものすごく悪くて」

「こっちもかなり吹いているわ」

「申し訳ないんですけど、ネットで天気予報調べて教えてもらえませんか」

「分かった。じゃあ、15分後にまた電話して」

あまりに残酷な天気予報。

 断続的に強風が吹きはじめて、すでに4日目に入っていた。正直言って、いい加減、天気が安定する頃だと思っていたので、てっきり山崎さんからは「大丈夫だよ、角ちゃん。明日には風がやむわ」みたいな、私の精神を安定させてくれる答えが返ってくると信じていた。ところが15分後に聞いた天気予報は、想像していなかったような最悪なものだった。暴風は翌17日夜まで続き、18日夜から19日にかけて一旦弱まるものの、20日、21日と再び強まり、しかも今よりさらに荒れるというのだ。天気が完全に回復するのは22日以降だという。

 氷河の入口にたどり着きさえすれば、その後は1日の好天があれば海まで降りることができる。海まで降りてしまえば、どんなに天気が荒れても村への帰還は可能だ。しかし、天気予報を聞く限り、その氷河の入口まで無事にたどり着けるか微妙だった。残りの食料を考えると、天気が安定する22日までには絶対に氷河の入口にたどり着いていなければならない。今の地点から氷河の入口まで、最低でも2日は必要だろう。もし予報が正しければ、行動可能な日は18日と19日の2日だけしかないので、その2日間で何としてでも氷河の入口までたどり着かなければならないわけだ。つまり私にはもう一日の余裕も残されていないのである。それも天気予報が正しければの話であり、もしかしたら延々と嵐がつづくこともあり得るし、さらにネックなのは氷河の入口で、この氷河の入口は本当にルートが分かりにくく迷いやすいので、絶対に風のない視界の完璧な日が必要なのだ。だが、そういう日が果たして本当にやってきてくれるのかは不明だった。