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息子が壁にぶつかったら2001年の近鉄・盛田幸妃の話をしてやりたい

文春野球コラム ウィンターリーグ2017

2017/12/26
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病気と闘う「たかはま」ファンの息子

 私には3歳になった息子がいる。パパとかママとか赤ちゃんが初めて喋りそうな言葉を差し置いて「たかはま」と喋った猛者だ。「たかはま」とは来季11年目を迎えるマリーンズ髙濱卓也内野手のことだ。長年の髙濱ファンである私の影響であることは一切否定できない。

 球場に行けば「野球場へ行こう」を歌い、マリーンズ戦に連れて行けばペーニャの応援歌を高らかに叫び、「おれたちのふくうらー」と歌うぐらいにはマリーンズに染まっている。

 そんな息子が病に倒れたのが1歳7ヶ月の時。具体的な病名は伏せるが、自治体から医療費の補助が出るものだ。手術の後2ヶ月ほど入院して、さらにそこから1年ほど抗がん剤治療(癌ではないが、有効な治療法が抗がん剤)を続けていた。

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 一見悲壮な雰囲気が漂いそうな状況だったが、息子は入院中はテレビでマリーンズの試合を見て、「たかはま」がホームランを打つのを見て喜んだり、昔のマリーンズの試合のDVDを見てはしゃいだりしていた。特にその間活躍していた髙濱には今も感謝してもしきれないぐらいだ。退院直後は外出を控えていたが、2017年のオープン戦から球場での試合観戦を解禁。点が入ればバカみたいに大きな声で叫ぶ。周りの人にハイタッチを求める。ジャンプだってする。野球に希望と元気を貰いながら少しずつ良くなっていった。息子も、親である私もだ。

 抗がん剤での治療も終わって定期検査を続けていたが、今月、「どうやらエコーの映像に影がある」というドラマぐらいでしか聞いたことがないことを医者から告げられた。CTの画像と組み合わせたところ、症状の再燃の可能性があるので精密検査をしたいと病院側から申し出があった。息子の病気についてはいわゆる「寛解」という概念が無い。非常に再発しやすいからだそうだ。

 ある程度覚はしていたものの、そういう風に言われると辛いものがある。当の本人は元気そのものなので、未然に症状を発見できたと思えばまだいいのかな。と思うことにはしたが、やはり辛いものは辛い。

 そういえば2017年のプロ野球は病気と闘う選手も多かった。脳腫瘍を発症した阪神の横田慎太郎、胃がんの広島赤松真人、潰瘍性大腸炎のオリックス安達了一、同じくオリックスの中道勝士……。中道は戦力外通告を受けてしまったが、安達は発症以降もプレーを続けながら病と向き合っている。赤松も横田も練習を再開した。横田については、息子がかかっている病院に行く道が虎風荘の真横を通るので、脳腫瘍だったということがわかってからは「頑張れ横田」と念じながら車を飛ばすことがルーティーンとなった。父親は横田真之。元オリオンズの好打者だ。父親譲りの体格と、当たればどこまでも飛んで行くパワー。まだまだ見たい。来季は育成契約だが、焦らずまたあの思い切りのいいスイングを見せてほしい。と思いながら虎風荘の前を通るのだ。

 横田や赤松を見ると、おそらく抗がん剤を使う治療をしていることもあり、どうしても息子と重ねて見てしまうところがある。ひょっとしたら同じ境遇の方がいれば同じようにご覧になっているかもしれない。だからこそ先に挙げた選手にはもう一度桧舞台に上がってほしい。それが希望になるからだ。

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