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平松洋子さんが20歳の自分に読ませたい「わたしのベスト3」

2018/01/08
平松洋子/エッセイスト ©文藝春秋

 読み逃していた、二十歳の頃に出会っていたら、と臍を噛む一冊が『椿の海の記』だ。四歳の女の子「みっちん」の記憶に刻まれた叙情世界を描く小説は、原初の感覚に貫かれ、エロスに満ち満ちている。「椿」はすなわち、水俣病によって失われた郷土であり、魂の原風景。森羅万象とのいのちの交歓が濃密に描かれるのだが、と同時に綴られるのは生きることの悲哀や残酷さである。石牟礼道子にとって、『苦海浄土』と対をなす極めて重要な作品だと気づいたときの、遅きに失した思いには忸怩たるものがあるけれど、いっぽう、二十歳の頃まっさらに『椿の海の記』と向き合っていたら、この豊饒の世界から何を受け取っただろう、受け取れただろう、と思わずにはおられない。喪失との対峙を迫るのも、石牟礼道子の言葉の本質だ。

 二十歳の自分を思うと息苦しくなる。早く社会に出たかったが、その手掛かりが朧気なことにあせったし、苛立っていた。自分は社会から必要とされているのだろうか、怯えに似た感覚は今もどこかに残り続けている。桐野夏生『夜の谷を行く』は、連合赤軍が起こした山岳ベース事件の真実を捉え直す小説だ。「総括」と称する十二人のリンチ死。主人公、西田啓子は「総括」から逃走、五年間服役したのち、過去を抹殺してひっそり暮らしている。ところが四十数年後、過去と現在を繋げる出来事によって、啓子は隠蔽していた自己と対峙することになる。目の前しか見られず、ただあがいていた二十歳のとき、『夜の谷を行く』によって自己を見つめる視点に出会わせたかった。

 二十歳の自分を振り返って痛烈に思うのは、歴史を自身の問題として捉える視点が欠けていたということだ。赤坂真理『東京プリズン』を読んだとき、その事実を突きつけられた。十六歳の少女が「天皇の戦争責任」についてたった一人で挑む「東京裁判」。小説は、世界をつかむ手がかりでもあるということを、二十歳の自分に教えてやりたい。

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『椿の海の記』石牟礼道子/河出文庫

椿の海の記 (河出文庫)

石牟礼 道子(著)

河出書房新社
2013年4月5日 発売

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『夜の谷を行く』桐野夏生/文藝春秋 

夜の谷を行く

桐野 夏生(著)

文藝春秋
2017年3月31日 発売

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『東京プリズン』赤坂真理/河出文庫 

東京プリズン (河出文庫)

赤坂 真理(著)

河出書房新社
2014年7月8日 発売

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