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物流業界の値上げ、「陰の立役者」は一般メディアだったかもしれない

物流業界の値上げ、「陰の立役者」は一般メディアだったかもしれない

「働き方改革」はどこまで進むのか

2017/12/30
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運賃交渉しやすい環境が整備された

 また、運送の現場では、到着時間が厳格に指定されているが、その時間になっても荷主の都合で積み込み・積み下ろし作業を始められず、頻繁に「荷待ち」が発生していたことから、改正約款では「待機時間料」を規定。付帯作業にかかる料金だけでなく、荷待ちについても対価をもらいやすくした(物流ニッポン5月1日付「積み込み・下ろし『別料金』」)。

 これはトラック運送業界にとっては大きな出来事で、今年の重大ニュースの一つと言える。運送業界は中小企業が大半を占め、荷主に対して立場が圧倒的に弱かったが、約款改正を契機に、運賃交渉しやすい環境が整備された。その上、先行して宅配大手が値上げを表明したことで、中小企業にとっても価格を引き上げやすい土壌ができた。

 また、今年は物流関係のニュースが一般メディアでも数多く取り上げられ、社会的に「物流費の値上げやむなし」の機運が高まった。こうした報道があったからこそ、運送会社は値上げを実現できている。そう考えると、各報道機関が「陰の立役者」と言えるかもしれない。

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©iStock.com

物流業界にとってもインパクトが大きい「働き方改革」

 さて、2018年の注目ポイントは「働き方改革」だ。年明けから始まる通常国会で、政府は労働基準法改正案などの働き方改革関連法案を提出する見通しだが、中でも労基法の改正は、物流業界にとってインパクトが大きい。

 政府はこれまで、中小企業には「月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率(50%)の適用」を猶予してきた。しかし、労基法改正案が成立すれば、3年の猶予期間を経て、これが義務付けられる。先述した通り、運送会社は中小企業がほとんどのため、大半が人件費上昇の憂き目に遭うことになる。そうなると、消費者や荷主にとっては、運賃の更なる値上げ、運送会社の相次ぐ倒産などが懸念されるかもしれない。

 また、トラックドライバーなどが行う「自動車運転業務」は現在、時間外・休日労働に関する労使協定(三六協定)の適用除外業種に当たるが、改正法案が成立すれば施行から5年後に、月平均80時間(年960時間)を上限とする時間外労働規制が開始(物流ニッポン4月3日付「施行5年後に月80時間」)。

トラックドライバーの働き方改革は進むのか ©iStock.com

 人手不足が加速する中で、労働時間規制まで設けられれば、物流が停滞する恐れもある。更に、輸送に時間を要する長距離輸送は敬遠され、北海道や九州で獲れる魚が、東京では「超高級魚」となるような事態も想定される。

 こうした事態に陥らないよう、政府は人手不足対策として、物流の効率化を促している。特に目立つのがロボットなどの活用で、安倍晋三首相は2015年11月、ドローン(小型無人機)による荷物配送を2018年までに実現するよう指示。1月からは、自動運転技術によりトラックを隊列走行させる実証実験も始まる見通しだ。民間レベルでも、倉庫内でピッキングしたり、保管棚を作業者のところまで移動させたりするロボットの導入が進んでいる。

 ただ、物流に限らず、あらゆる仕事の現場で最も頼りになるのは人の知恵であり、「適材適所」という言葉もある。働き方改革は、ロボットの活用だけに偏重しないよう注意してもらいたい。

(株式会社物流ニッポン新聞社・業務部担当)

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