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名医が受けたいがん治療(1) 胃がん篇

2018/03/29
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 がん患者なら、だれもが最良の手術を受けたいと願うもの。しかし「切るか切らないか」など悩みは尽きません。そこで名医と称される専門医たちに尋ねてみました。

「自分が患者だとしたら、どんな治療を受けたいですか?」

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 胃がんは、胃の中に棲む「ヘリコバクター・ピロリ(いわゆるピロリ菌)」が大きな原因と言われている。感染率は若い人ほど低く、胃がんの罹患率も減る傾向にある。とはいえ、高齢者は感染率が高く、まだ過去の病ではない。ピロリ菌が陽性で、胃の粘膜の萎縮が進んでいる人はリスクが高いので、定期的に内視鏡検査(いわゆる胃カメラ)を受けたほうがいい。

 早期がんなら悪くても9割、進行がんでも手術ができれば、半数近くが5年生存を果たしており、治りやすいがんと言える。ただし、胃を切除すると、腹痛や冷や汗、めまいなどを起こす「ダンピング症候群」になる場合がある。そこで、胃を切り取らずに粘膜だけをはぎ取る治療や、胃の出口(幽門)の機能を残す手術が開発されてきた。

 元国立がんセンター中央病院副院長で、世界の胃がん治療をリードしてきた兵庫医科大学集学的腫瘍外科特任教授の笹子三津留医師は、これまで約3000例もの胃がん手術を手がけてきた。その笹子医師が断言する。

「術後の後遺症を防ぐ様々な工夫をしてきましたが、やはり、胃を切り取らずにすむなら、それに越したことはありません」

 胃を残せる治療法として普及しているのが、胃カメラを利用した「内視鏡治療」だ。治療できるのは、おおむね粘膜にとどまる早期がんに限られるが、現在、約6割が早期で見つかり、そのうちの約6割が内視鏡で治療されている。

 かつては、生理食塩水などで山形に盛り上げた粘膜に、金属の輪をひっかけて取る「内視鏡的粘膜切除術(EMR)」が主流だった。しかし、EMRでは2センチを超える腫瘍は取り切れなかった。この難点を克服するため開発されたのが、内視鏡の先端から小さな電気メスを出し、それを操作して、がんを胃の粘膜ごとはぎ取る「内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)」だ。

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 粘膜にとどまる早期がんなら、10センチを超える腫瘍でも一度にはぎ取ることができる。これにより、胃を残せるチャンスが格段に広がった。粘膜は回復が早く、2、3日でやわらかいものが食べられ、2、3週間すれば普通に食事ができるようになる。07年に早期胃がんに保険適用となり、ESDは急速に普及した。

 しかし、胃に穴を開けずに、きれいに粘膜をはぎとるのは容易ではなく、ESDは専門医の技術格差が大きいと言われている。90年代の後半から独自にESDの開発に取り組んできた佐久医療センター内視鏡内科部長・小山恒男医師が指摘する。

「以前は正確な切除ができなかったから、大雑把な診断でもよかったんです。しかし、ESDは腫瘍が星形なら星形に、四角なら四角に正確に切れます。ただし、ESDの後は、粘膜の下の組織が硬くなるので、二度目の治療はむずかしい。ですから、正確に腫瘍の範囲を診断して、一度に確実に切除することが重要です」