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日本で一番熱い山男の「常識を超えた挑戦」――望月将悟×田中陽希 対談 #1

TJAR絶対王者×百名山ひと筆書き

2018/01/01
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 いま、日本の山を舞台に常人には計り知れない挑戦を続ける二人の山男がいる。望月将悟さん(39)と田中陽希さん(34)だ。

 望月さんは、日本海の富山湾をスタートし、北アルプス、中央アルプス、南アルプスを縦断、ゴールのある太平洋の駿河湾までの約415kmの距離を駆け抜ける、規格外の山岳レース「トランスジャパンアルプスレース(TJAR)」を4連覇中の消防士だ。本業は静岡市消防局の山岳救助隊員で、愛称は「静岡の熊」。

 田中さんはNHKBSプレミアム「グレートトラバース」でも放映された「日本百名山ひと筆書き」「日本二百名山ひと筆書き」を達成し、多くの山好きやハイカーに「ヨーキ」の愛称で親しまれるアスリートだ。2回の「ひと筆書き」では、北海道と屋久島をそれぞれスタートし、山に登り、山と山の間は歩き、海はシーカヤックで渡り、山々を歩きながら人力のみで日本を南北に縦断した。

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 田中さんは2018年の元旦から新たなチャレンジ「日本三百名山全山ひと筆書き」に挑む。その出発直前、お互いに「リスペクトしている」という二人が初めて顔を合わせた。

山雑誌ではお馴染みの二人の初顔合わせ ©藤巻 翔

◆ ◆ ◆

一年半かかる「日本三百名山全山ひと筆書き」の旅へ

望月 はじめまして。いつも陽希君の姿から刺激をもらっていますよ。百名山、二百名山の挑戦はスケールが大きすぎて、その大変さは僕にも想像がつかない。ましてやこれから挑む三百名山は知らないマイナーな山も多く歩くことになりそうだから、いま一番日本の山に詳しい人になりそうだね。

田中 ありがとうございます。今までの百名山、二百名山では、それぞれ指定された100個の山に登ってきたのですが、今回の挑戦では、三百名山に登りつつ、百名山、二百名山にも登り直し、合計301の山頂に立つ予定です。

望月 30「1」? どういうことですか?

田中 やや複雑なんです(苦笑)。百名山は有名な深田久弥さんが1964年に出版した「日本百名山」で指定されました。そして深田さんが亡くなった後に、日本山岳会が「三百名山」としてまず300の山を指定、その後、深田クラブという登山愛好家グループが「二百名山」を指定しました。二百名山、三百名山ともに深田さんの百名山に追加をして制定されています。ただ、最後に制定された二百名山で追加した100の山のうち、99は三百名山と重複しているのですが、ひとつだけ重複していない山があるんです。新潟県にある荒沢岳。だから、百名山、二百名山、三百名山を完全制覇をしようとすると、301登らなければいけないんです。

望月 全然知らなかった。でも、一気に301の山かあ。シーカヤックで海峡を横断したり、徒歩で移動する距離も長いから体力的にもしんどいだろうけど、陽希君にとっては登ることはそれほど大変じゃないという気もするな(笑)。

シーカヤックで移動する田中さん ©田中陽希

田中 確かにそうかもしれません。大変なのは、ずっと一人で挑戦を続けることと、あとはチャレンジ期間が長いのでモチベーションを維持し続けることですね。百名山は209日間、二百名山が222日間で達成しましたが、今回は約1年半を予定しています。

望月 長い(苦笑)。そういえば陽希君は僕が出る前のTJAR(2008年)にも出場して、完走してるんだよね?

田中 はい、チームリーダーの田中正人さんに「とにかく出てみろ」と指示され、まだ南アルプスも走ったことがなかったんですけど走りました(苦笑)。その時は6日と23時間でゴールしましたが、望月さんが2016年に樹立した大会記録の4日23時間52分とは丸二日も違う。「望月さんが5日を切った」と最初に聞いたときは信じられなかったですよ。

望月 2008年当時に比べたらシェルター(簡易的なテント)やザックなどの装備も進化しているし、レースで走る山の情報もたくさん出てきているからね。でも僕も最初は北アルプスに行ったこともなくて、いきなりだったから不安もありました。

田中 それにしても考えられないスピードです。普通の人にはすごさが伝わりにくいと思いますが、日本海から太平洋ですよ。しかも、日本アルプスを超えて。この記録を超える人はそうそう出てこないはずです。望月さんが2012年にレースを終えた後に書かれたレポートを読んだんですけど、「次の挑戦で新記録が出そう」と書いてあったのが印象的でした。

望月 でも結局、「次」だった2014年のレースでは台風が来てしまい、記録を更新できなかったんだよね。それにその年から大会自体も大きく変化したんです。2012年にNHKスペシャルで大会が紹介されたことで、たくさんの人たちに注目されるようになり、参加者や取材をするメディアも増えてきた。

田中 大会前に実施される選手の選考会も、僕が出た時より厳しくなっていますよね。ちょうど山を走るトレイルランニングが世の中に広がってきて、自己の限界を追求するストイックな傾向が強まり始めた頃ですよね。トレイルランにはまった人がフランスのUTMBや日本のUTMFといった100マイル(160km)のレースを完走するようになり、その先にある世界としてTJARがひとつの目標になっていったんだと思います。ちなみに、TJARは2年に一度の開催で今年は8月にレースがあります。出場されるんですか?

望月さん愛用のヘルメットには「限界のその先にある未来へ」 ©藤巻 翔

望月 実は迷っていて。もう具体的な目標がないというか、、、。ただ、いま4連覇で、僕は「5」という数字が好きなんですよ。目標がないと言いつつも、何か刺激が欲しいのは間違いがないので、5という数字を求めて走っちゃうかも(笑)。刺激という意味では、想像できないことを体験したいので、陽希君の本職であるアドベンチャーレースにも憧れますね。

田中 そういえば望月さんはフルマラソンでとてつもないギネス記録を持ってますよね?

望月 うん。男性の「40ポンド(18.1kg)の荷物を背負って走った最速マラソンタイム」ね。3時間6分16秒です。2015年の東京マラソンで出したんだけど、この時に20ポンドの記録も更新したらしく、実は2つギネス記録をつくっちゃったんです。

田中 ありえませんね(笑)。